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 永訣       藤井 幸子

母叱る息苦しさに積もる雪

磨硝子終の棲家となる窓辺

おむつ当てられし口の端粘る痰

拘束をしたまま呼吸不全なり

四人部屋エンゼルケアの気付かれず

病院を抜ければ風の心地よさ

生前の顔を知らない納棺師

嫁に恵まれて幸せだったでしょ

姑の日記に家の黒歴史

断捨離の次第に軽くなる家よ

…‥‥‥‥‥‥………‥‥‥‥‥‥………‥‥‥‥‥‥……
天根夢草氏評
1位
母叱る息苦しさに積もる雪
四人部屋エンゼルケアの気付かれず
生前の顔を知らない納棺師
 重い表題。整然とした10句。1位に推さざるを得ない気持ちにさせられた。「納棺師」は、映画「おくりびと」の本木雅弘の所作を思い出した。「顔を知らない」の厳しさ。

吉崎柳歩氏評
12位
生前の顔を知らない納棺師
母叱る息苦しさに積もる雪
嫁に恵まれて幸せだったでしょ
 義母との永久の別れになるまでの前後を詠んだ十句。最後まで付き添った嫁として坦々と詠まれているが、句の並べ方に拘りすぎて、想いが上手く伝わっていないようだ。「姑の日記に家の黒歴史」などは蛇足だろう。

松橋帆波氏評
2位
 人間の死亡率は100%ですよ、と言うと、ビックリする人がいることに、こちらが驚いてしまう。「死」が身近でないことが、どんなに不自然なことか、私たちは改めて見つめ直す必要がある、と僕は感じている。有機生命体である以上、私たちの肉体には限界が存在する。しかし、精神が外界の記録媒体に記す事柄には、限界が無い。表現の自由が、尊重されなければならない理由は、その存在を、永遠のものとする自由と権利を、誰もが有していなければならない、人間の、根源的、証明であるからだ。
 この作品において、作者と母は、未来永劫に生き続ける。この世に存在していた瞬間が、言霊によって切り取られ、今作品として、エターナル・レコード化されたからだ。死は、忌避するものではなく、限りがある命への尊厳が齎す、絶対不可侵な道徳世界との、関係性の停止に過ぎない。従って記録された生の痕跡は「永遠」に存在し続ける。「永訣」は終了した「生」が、永遠の存在となる始まりの瞬間かも知れない。

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