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 きのうの悔い                        
ひと言に迷いがすこし吹っ切れて約束の日をたしかめている
逢う逢わぬビル街の灯の濃く淡く夜空がそっとわたくしに問う
今生の影のさみしさコンパクトときどき母のおもかげ見せる
傘の中に歯をみせ笑いあっていたきのうの影を引きよせている
まなうらに浮かぶ欠けらを手繰りよせ地層のようにかさね呼ぶ過去行き違ってからのあなたに待たれつつ渡すことばをまたすこし練る
おぼろ月に押されるようにひとまずは定刻に来るきみとほほえむ
ぬかるんで他人どうしのように坐すふたつの影のひとつわたくし
右と左にきみと別れるアーケード切り捨てられぬきのうもきみも
覗いたら心残りが見えてくる日記に淡くあの日の二人

ひと言に吹っ切れきみと逢い別れやがてきみの訃手のひらにのる
夕闇の空へひとりを裂けさせて空しさにいる友とわかれて
わたくしの中のわたしが理由(わけ)もなく萎えゆくときの爪を噛むくせ
きみを探しあぐねてうたも詠みきれず消しゴムの滓ばかりをふやす
掴んでつかみきれぬあなたを畳もうとすればときおりひらく疵口
遺歌集の届いてきみはゆらゆらと海月のごとくまなうらにたつ
逝ってしまったきみと溺れていたことも遺歌集のなか迷路をみせる
それからをきみへ傾くうた幾つむなしさペンを重く執り継ぐ
残り時間いくばく成らぬものばかりやがてわたしを水攫うまで
海へ海へやがてわたしも放たれて波間にうかぶ泡となる日よ

草に寝ころぶきみの瞳をながれゆく雲を亀裂のままに見ていし
おたがいの歪をやがて埋め合って漂っていた草むらの昼
片頭痛くぐりぬけゆくいま浮かぶきのうのきみのふいに開く目
踏み込んできたものへとやがてひび割れてゆるい絆のままに過ぎゆく
雨音の中に雨音あるいまを独り覚めいる答のように
林檎剥きつつもひとりは楽しまぬ過去をでてくる影の林立
雲のながれ見ていたあの日の砂をみなあつめたように渇ききわまる
独りにはひとりの時間気怠さへきのうがふいにひらく色濃く
トカゲにはなれないわたしひねもすを切れぬしっぽと漂っている
とめどなく雪崩れゆくものにびいろの響きをたてて身の裡にあり

耳にとどいたきみの今際のはなれずに缶珈琲を冷めさせている
ひび割れたきのうをカオスからひろうくすんだ午後ににびいろを足し
花の鉢一つ手入れのベランダの傍(かたえ)に暮れるきのうもきみも
(て)に享けた果実をいまもあたらしくわたしの中の珠として抱く
夕ぐれのせまるあの日のいしぶみの辺りを独りさまよってくる
すこしずつわたしの錆を深めつつ訃につづく蒼をさまよっている
わたくしの地図にまだらに消え残るきのうをきみがふいに出てくる
身の裡に点滅のきみの今際さえはるかはるかに流されてゆく
インターネットの海に落としたためいきに一つ返った声はあなたか
くちずさむきみのあの日の相聞歌鈴となりゆくわが身をぬけて

独り生きる哲学語りあいながらときどき孵(かえ)すおなじ結論
水音のつづきに顔をもたげくるきのうのきみへ返すほほえみ
きのうから逃げきれぬまま幽世(かくりよ)のあなたへながす笹の葉のふね
おもちゃ箱にしまい残したうたひとつ五月のそらへとべよわが魂(たま)
解ひとつ探せぬままにたそがれる今際のきみをまたたぐりよせ
自虐の爪噛んで追い詰められているわたしの中の逝ったあなたに
すこしずつあきらめいつものひとといる雑談めかしことば返して
漂流のつづきもきみがそばにいて許してくれたことへ言い訳
点滅しやがて消えゆくきのうとも亡きひとといる秋霖(しゅうりん)のなか
階段をきしませている影になりきのうの悔いをまた引きよせる

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