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前田咲二遺句集 平成11年』⓬
逃げ道をすこし残して追いつめる
調停の椅子できしんでいる絆
燗をしているのに冷やがいいと言う
わたくしの個性をていねいに削る
予想屋の予想の逆に賭けてみる
居つづける貧乏神と手をつなぐ
タネ一つ明かして喝采をもらう
やりたいことまだ半分という受章
南座のまねきてっぺん幸四郎
カネとおんなさてどちらから攫おうか

ナルシシズムの私わたしに攫われる
画廊出て秋色に溶けこんでいる
間違い電話だったと妻に言うておく
温泉の一つ手前の駅で逢う
故郷の友に小さな借りがある
吸殻を拾ったころを知ってるか
光にも闇にも融けている壷だ
これ以上惑うときっと罪になる
蟻百匹ひねって独裁がすすむ
三日月の端で背中を掻いている

まるで三下り半だな妻の置き手紙
よくやった銀とくやしい銀がある
番号順に並ぶと男おとなしい
どなたはんやろかと老母の目は仏
咳きながらのれんをくぐる癖がある
軽い方のつづらに反古を詰めておく
出囃子に興奮剤が入れてある
半熟の卵の中にある道化
時効になった罪が大手を振っている
蜜すこし垂らして結び目をほどく

返答につまると笑う癖がある
献上目録寒鰤一尾那智神社
西国第一番札所五百段
終止符を打つ木枯らしの吹く街で
わたくしの意外を探す旅に出る
胸倉を摑んだままで堪えている
終章できっと二人は消えている
同じほど相手も堪えている筈だ
人間を測る数字が多すぎる
酒徒として慎みぶかく飲んでいる

眼鏡を買い換えて晩学怠らず
遠い景色に水子がひとり居て去らぬ
耳も鼻も動いて如才ない男
男のいない景色を屑篭に捨てる

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