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 父が亡くなってこの3月で17年。実家に水墨画が遺されているので、それをどうしようかと思うのである。そのどれもがたいせつなものである。たいせつなものとはこういうもののこと。父が懸命に取り組んでいた作品にはたましいがこもり、丸めた画の端切れすらも捨てることはできない。この先どうしたらいいのだろうか。

 父が亡くなっても、これら遺作の存在はかつて父が生存していたという証のようなもの。いまわたしが生きている意味をも支える、こころの根幹の一部となっている。ただ、わたしもいつまでも生きていられない。17年間どうしようもなかったことは、たぶんこれからもどうしようもない。執着はいけないとも思うが、もちろん捨てるというような処分はしかねる。しかし、肩の荷を下ろしたい気持ちもあって、しみじみ所有はリスクかもしれないと思うのね。

 遺作展が終わったあと、画商から全部まとめて譲ってもらえないかという話があった。そのときは、とてもではないが手放すという選択肢はなかった。それでも申し出のあった方々に十点ほどはお譲りしている。たいそうな額を謝礼として置いていかれた方もいる。死ねば、ほとんどの人は何も残らない。死後一定の期間が過ぎれば無に帰するのだ。つぎは、2月14日の「しんぶん赤旗」に採らせていただいた句。

人形をゴミに出しては持ち帰る  山口県 下村由美子
 〈評〉人形には魂が宿るといわれる。捨てることに抵抗を感じる人も多い。気持ちの整理がつかない作者は、収集車が来る前にまたそっと持ち帰る。

 断捨離ということばを聞いてから十数年経つだろうか。断捨離のそれぞれの文字は、ヨーガの行法である断行・捨行・離行に対応しているらしい。
  断:入ってくる不要なものを断つ。
  捨:家にずっとある不要なものを捨てる。
  離:ものへの執着から離れる。
 と、上記の意味があるというのね。

 すなわち断捨離は不要なものを「断ち」「捨て」、ものへの執着から「離れる」ことによりこころを開放し、快適な生活と人生を手に入れようとする思想なのね。単なる片付けとは異なっているだろう。しかも断捨離はものだけではなく、仕事や人間関係などにも及ぶのである。かつて「断捨離で『母の呪縛』を解く」という特集を読んだのは『婦人公論』だったか。

 ものを溜め込むのはこころに不安があるからで、溜め込んだものを捨てることで不安を解消できるという。執着が強いのかどうなのか、わたしは身辺のどんなものでも「かわいそうで捨てられない」というのが正直なところ。とくに長く自身のそばにあったものを捨てるというのは、自身の一部を削ぐことと変わらないのではないか。

 川柳についても同様。川柳眼の怪しい選者によって没にされた句も多いことだろう。句は捨ててはならない。いずれ自身の手によってリニューアル、素敵な句に生まれ変わることも考えられる。その日まで、たましいから生みだされた作品はたいせつにしまっておかねばならない。

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