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  初心の頃に惹かれた川柳                  加藤  当白

 趣味と娯楽の違い-「趣味とは向上の苦しみが伴う愉しみ。娯楽とは向上の苦しみが伴わない愉しみ」。こんな言い得て妙な一節を読んだ。私の場合、楽器演奏が趣味、音楽鑑賞が娯楽となる。そしてある日、川柳が「趣味」として加わった。

 自ら新しい趣味を見つけた場合、なにからどのように始めるか。娯楽を見つけた場合なら興味の赴くままに鑑賞なり観戦をすればいい。では趣味の場合。第一発想としてはその分野の入門書を購入する、カルチャースクールなどの門を叩く、あたりだろうか。どっちにしてもおカネがかかる。まだ初歩の初歩である。というわけでその発想はボツ、私は違うところに目をつけた。

 川柳に出逢ってまず初めに考えたことは、本格的な川柳とはどういうものかをしっかりと知ることだった。ではどのように知ったか。当時の頭の中を再現してみる-「川柳という伝統的な文芸なら、この日本に全国的な組織がなにかしらあるだろう。ネットで調べてみよう。あった、これかな?『全日本川柳協会』。なるほど、これがおそらく全国の川柳結社を束ねる大元か。『大会記録』。おお、これはスゴイ!全日本川柳大会、国民文化祭、NHK学園、太平記の里、平成柳多留、川柳文学賞。歴代受賞句が全部載ってるよ!」というわけで、ホームページにある句をひとつ残らず印刷した。投句者数も出ており、その入選率からいうとかなりの厳選、全国的でハイレベルな川柳だということは容易につかめた。まるで宝の山を発見した気分だった。

 これはたかだか4年前の話ではあるが、文芸川柳についてほぼ無知だった当時の私が惹かれた句を、これから綴っていきたい。今になってあらためて読み直し、ようやく理解できた句も多々ある中、敢えてその時の感性で心をつかまれた句を挙げていく。

  旧姓で肩叩かれた上野駅     田中 和子(第23回全日本秋田)
  真ん中のすっぽんぽんが私です  西 はじめ(第23回全日本秋田)
  悪人の遠い記憶にある絵本    石川 勝(第3回全日本大阪)
  判決に古い時計が動き出す    近江 あきら(平成柳多留第4集)
  輝いた記憶で君を介護する    吉道 あかね(第21回国文祭山口)

 いずれの句も一読でグッと引き込まれ、初心の私にとっては一編のドラマを見せられた感覚だった。たった十七音で、こんなにも想像が自由に広がっていった初めての経験として忘れられない。共通項としては「遡る時間」となろうか。映画などでよくある、過去にフラッシュバックする時の周囲の景色が光速で流れ去る、あの感覚。

  木簡のかすかな文字がしゃべり出す  西川 國治(第38回全日本富山)
  すごいなあ龍を初めて描いた人    栗田 忠士(平成柳多留第16集)
  城主末裔税務係に籍を置く      大久保 卓次(第16回全日本和歌山)

 これらの句はさらに時間を遡る。目のつけどころが独特だと感嘆した。木簡のしゃべり声に耳を傾ける姿、龍を初めて描いた人に思いを巡らす感性、役所の税務係に城主末裔を思い浮かべるユーモア。一瞬にして時代を越えることのできる川柳。

  遠ざかる子の足音を信じよう  河原 房子(第21回全日本三重)

 この句を読んだ時、涙こそ流れなかったが、自分も子を持つ親として大いに胸を打たれた。一抹の寂しさと将来への期待。今度は時間軸が未来を向いている句として感動。川柳のセの字も知らない妻にも思わず読ませた。

  人を切る数字を抱いて席につく     村山 勇太郎(第9回全日本奈良)
  完封へ捕手は呼ばれぬお立ち台     塚本 勘平(第26回国文祭京都)
  じっとしておれぬとみんな来てくれる  小梶 忠雄(第22回国文祭徳島)

 私の祖父も生前このような深い人間心理を掬い上げる川柳を多く遺した。川柳の本領を見るこういう作品は、私の最も好きな川柳観だ。唸らされる川柳。

  鉢巻をゆっくりほどく覇者の指   北野 岸柳(第10回全日本大分)
  良く来たと窓から孫を抱き上げる  井村  隆(平成柳多留第18集)

 日常にある光景を見たままに詠んだ川柳であるものの、その背景に思いを馳せることのできる物語性に惹かれた。この光景は川柳になる、とフォーカスした作者の観察眼と感性に憧れる。

  すらすらと僕には読める母の誤字   清水 美春(第12回全日本千葉)
  痛み止めこんなに残し逝った母    金崎 健一(第38回全日本富山)
  ギャンブルを子の作文がやめさせる  内田 東陽(第28回全日本埼玉)

 子の視点、親の視点。それぞれが深い愛情に裏打ちされた川柳。最も身近な親子関係から立ち昇ってくる数々のドラマ。ノンフィクションであればあるほど、リアルに伝わってくる心情風景。

  木の泣いた分だけきっと泣かされる  滝本 星城(平成柳多留第1集)
  人間の森に絆という根っこ      田辺 与志魚(第37回全日本青森)
  乾杯のかたちで春の芽が伸びる    末光 也寸絵(平成柳多留第6集)

 木、森、春の芽といった自然物が登場するも、俳句ではなく、あくまでも川柳。川柳家は自然物を見つめていても、常に人間描写を念頭に置く。そんなことを考えるまでもなく、純粋にうまいこと言うなあと感心した句。

  仏さまといつもいのちのはなしする    森中 惠美子(第11回全日本札幌)
  鬼も蛇もみんなまあるくする民話     斉藤 よし一(第21回全日本三重)
  ボランティアあのばあちゃんが笑うまで  倉橋 悦子(平成柳多留第5集)

 読んでいて、とても心が穏やかになっていく感覚に浸った。敢えてひらがなで表記された句の姿にうっとりした。また、こういうことも川柳になってしまうのかという発見もあった句。

  黒光りするほど生きて生きて死ぬ  藤原 鬼桜(第38回全日本富山)
  いち富士が他の追随を許さない   水品 団石(第28回国文祭山梨)

 一読、「カッコいい!」とシビれた川柳。当の作者は一切カッコつけようとして作ったわけではないはずで、だからこそ男心をグイとつかまれた魅力ある句だった。こういう句も私の目指す川柳。あくまでカッコつけずに。

  塾へみな逃げてしまった鬼ごっこ  石川 雅子(第30回全日本岩手)
  レシートへ一人暮しを刻まれる   大澤 いさ子(第31回全日本栃木)

 現代社会を鋭くえぐった川柳。川柳家の視点にあらためて脱帽。昔はこんなではなかった、という世への嘆きとも思える寂しさが表現され、胸にジーンと迫ってくるものを感じた。

  沢ガニも君もそーっと捕まえる   加藤 鰹(第34回全日本鳥取)
  感嘆符だけでローマを見てまわる  福士 哲夫(平成柳多留第10集)

 表現技法に魅了された川柳。今でこそ「取り合わせの妙」とかいう知識はあるが、沢ガニと君を並列し、それをそーっと捕まえるだなんて、すごい発想だし理に適った表現だと思った。感嘆符という措辞にすべてを込める。

  わたくしの中で発酵してる黒  真島 久美子(第38回全日本富山)

 初心者には「なんだこれは!?」が第一印象だった句。にもかかわらず、なにかタダものではない、新鮮な香りに包まれる感覚に陥った記憶がある。数年後、恥を忍んで作者本人に直接意味を訊く機会を得た。

 以上30句、全日本川柳大会、国民文化祭、平成柳多留の3つに絞り、始めたばかりの私が魅了され、そして今でも諳んずることのできる川柳を挙げてみた。

 全日本川柳協会ホームページ掲載の大会記録の次は、全国各地にある吟社の柳誌を片っ端から取り寄せてみようと思い立つ。ネット上から問い合わせたり、ハガキやFAXを出したり、吟社の代表の方に直接電話もした。どこも良心的で、無料で送付してくれた。こんなことを言うのは野暮だが、おカネもかからずにこんなにもたくさんの川柳作品に触れられるなんて、すごく恵まれた趣味だと思った。検索すればネット上にも無数とある。

 入門書も講師もいいが、なんの先入観も持たず、まずは実際の作品に触れ、自分の感性のままに鑑賞するということ。そうすることで養われていく鑑賞力、実作における表現力、すべてが盗み放題なのである。「聞きに行く弟子ほど使えない弟子はいない」-貴乃花親方の言葉の影響もあろうが、まずは自分自身の眼で、実際の川柳作品や川柳作家を見極めていくということ。川柳家であった私の祖父から生前指導を受けることもなく、没後20年近くしてから巡り合った川柳。「自分でやれ」-これを言いたかったということか。柳歴としてはまだまだ浅いが、向上の苦しみが伴う愉しみである趣味として、川柳はあまりにも奥が深く、広い。

 最後は前述の3つ以外からどうしても掲げたい句。初心の私が畏敬の念を抱き、ブルッときた川柳。

  鮨に手をだせば許したことになる  由田 和男(第1回NHK学園根上川柳大会)
(原文ママ)

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ブログの読者からの投稿❸‥「初心の頃に惹かれた川柳」(加藤 当白)”にコメントをどうぞ

  1. はんじき on 2019年11月25日 at 6:46 AM :

    川柳初心者としては
    大変勉強になりました。

    • たむら あきこ on 2019年11月25日 at 8:05 AM :

      はんじきさま
      当白さんからここにのちにコメントがあると思います。
      もう一度ご覧くださいますか。

      初心の方が〈川柳〉を知り、実作に入っていかれるのを応援するつもりで、ここに掲載しています。
      より多くの方々がこの文芸を受け継いでいってほしいのね。
      川柳は〈座の文芸〉でもあります。〈にんげん〉を詠むからにはいずれ句会で句を競い、また柳友をその場で得ていただきたいのね。
      この魅力ある文芸を、みんなで繋いでいきたいと思います。

    • 加藤 当白 on 2019年11月25日 at 9:04 PM :

      はんじきさま

      コメントありがとうございます。

      私もまだまだ勉強中の身です。「我以外皆我師」。
      お互いに切磋琢磨していきましょう!

  2. 次根 on 2019年11月25日 at 9:41 AM :

    ありがとうございました。
    川柳の素晴らしさをあらためて知りました。
    柳歴だけ重ねてとても小生には届かない世界
    ご活躍を毎日ブログで拝見しております。
    お体ご自愛下さい。

    • たむら あきこ on 2019年11月25日 at 9:58 AM :

      次根さま
      ブログを活用、まとまったご意見があれば川柳界の今後のためにも掲載してまいりたいと思います。
      川柳のことで考えておられることがあれば、お聞かせください。
      一人一人の率直なご意見が、これからの川柳界には必要と思います。
      コメントありがとうございました。

    • 加藤 当白 on 2019年11月25日 at 9:10 PM :

      次根さま

      コメントありがとうございます。

      自ら見つけ出した川柳がこのような作品ばかりで私は幸せでした。
      お互いに大いに感動をもらいましょう!

  3. 加代 on 2019年11月25日 at 4:34 PM :

    当白さんの血筋が川柳に目覚めさせたのですね。
    選ばれている川柳もぞっとするほどの魅力ある句ばかりです。
    次のエッセイ楽しみにしています。

    • たむら あきこ on 2019年11月25日 at 7:31 PM :

      加代さま
      そうですね。
      なかなか熱意があり、これから勉強していただきたい方のお一人ですね。

      このコメントは当白さんの返信コメントもいただけそうなので。
      しばらく待って、もう一度開いてみてください。

      次回は、いままでの作品から50句(もしくは30句)抄出して文章もつけていただく予定。
      次々回は、ふたたび50句(もしくは30句)、同様に。
      昨日100句と提案したのですが、少々長くなりすぎますからね。
      そのあと、おじいさんの句を、孫からの供養(?)のつもりで書き出されるのもいいかと。(あきこは、こちらにも関心があるのね)
      提案は、あきこ、笑。

    • 加藤 当白 on 2019年11月25日 at 9:22 PM :

      加代さま

      前回に続き、コメントありがとうございます。

      川柳塔HPのミニ句集、掲載された頃に拝見していますよ!
      <完璧な絵にしようとは思わない>
      好きな句です。

      今後ともご声援をよろしくお願いいたします!

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