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 苦しいときには力を下さいと祈る。それがいまのわたしと故・前田咲二先生との関係。先生と、先生の遺句集を編むことで日々語り合えていることに感謝。〈和顔施(わがんせ)〉ということばがある。和やかな心の人のまわりには自ずとしあわせが集まってくると。人は笑ったときの表情がいちばん美しい。誰に会ってもまず微笑、それが〈和顔施〉。先生の笑顔はとびきりよかった。(写真:ガンジス川を流れてゆく供花)

 自分しかもっていない個性と資質に誇りをもって〈わが道〉を行くという気概。心は移ろい易く捉えがたく、自分のものでありながら自分の思うようにならない。ままならぬ心からさまざまな人生の哀歓が生まれる。川柳という道でたまたまお声をかけていただき、そのあと十年間のえにしをいただいた先生も〈わが道〉を行く猛者だった。

 いまこのブログを読んでくださっているあなたもわたしも、いつまでも生きてはいられない。明日のことで思い悩むのはよそう。いまできることをいまするほかない。わたしの吟行は非日常の時間と空間のたび。非日常の時間も空間もどこかであの世につながっている。歩いているうちに心が洗われ、悲しみ怒りも薄れてくる。地球上の生物みながたった一つの命を生きているなかで、当然あなたもわたしもたった一つのかけがえのない命を生きている。

 日本人は「道」という言葉が好きだが、道をきわめるというのはもちろんただ歩くだけではない。道の心を体得しその道の究極に達すること。「好きこそものの上手なれ」というが、好きな道に挑戦していくことが人生なのである。

 わたしはさいごに川柳という道を探しあてた。それまでもながく短詩型文芸への情熱に突き動かされて生きてきた。他人が踏みかためた道を歩くのは退屈すぎるし、その道の風景には魅力を感じなかった。川柳、中でも吟行は日常を離れて非日常に入る。つきつめて言えば巡礼なのである。旅先での新鮮な時間に身も心もよみがえる。かつて巡礼装束といえば死に装束である白衣だった。巡礼に行くことで生まれ変わるためには一度死ななければならないということで、白い衣を着たのである。仏がいつも見守ってくれている。仏とは、死んで仏になった人と考えてもいいだろう。逝った人の魂つまり仏は、いつも寄り添ってくれているのである。

 自由に生きるとは、心のこだわりをなくすこと。自分の心を見つめ、一つでも二つでも、凝り固まっているこだわりをほぐし捨てていくことが大切。もともと人間は命とともに自然治癒力を与えられているのに、文明が進むにつれてその力をみずから捨てているようなところがある。

 ほか最近思うこと。墓地に墓石を置いて弔う習慣は江戸時代以降のことで、それまでの庶民は土に亡骸を埋め、その上に石を乗せただけだった。涅槃に入られたお釈迦さまの遺体は、在家の人たちによって火葬にされ、遺骨は八分されて各国の王が持ち帰り、ストゥパを建てて崇拝した。これがお墓の原点なのだ。お釈迦さまの開いた仏教は葬式仏教ではなく、この世をいかによく生きるかという真理を追究して修行することである。わたしは詠んだ句をこの世への置き土産にできればよい、墓石はなくてもよいのではないかと思っている。

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