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  (や)を行けば野に背かれている独り    日野  愿
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 上記はどこにでもある句ではない。すぐれた柳人のあつまる大会に行くとすぐれた句に遇える。2017年3月30日の「墨 作二郎を偲ぶ会」へは出席127名。発表誌の入選句のいくつかに眼を洗われたが、その中でもこの句には深くこころを打たれた。この大会に出席させていただいたが、そのとき愿先生も出席しておられたということ。
 この句は、「遊」、「行」、「点」、「鐘」とお題が出たなかで、桑原伸吉氏選「行」で上位(秀句のまえのまえ)に採られた句。わたしは愿先生の現役時代を知らないし、伺ったこともない。この一句で何を判断できるものでもないが、この句に詠まれているのは深い寂寥感とでも言うべきものである。(たむらあきこ)
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 下記は『たむらあきこ千句』から転載。氏の句評について前田咲二先生が「愿の文もいい」とおっしゃっていたとお伝えすると、喜んでおられた。
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 川柳阪南代表日野愿氏と川柳塔わかやま吟社句会でご一緒させていただいてもう十六年近く。堺番傘句会には度々おじゃましているが、課題吟に対して翌月号柳誌に佳句への氏の選評が載る。多くの評をいただいているのだが、その評にかねてから敬意を払ってきた。この度川柳集を出すにあたり、氏のご了解を得てその一部を抄出。氏には深く感謝申し上げたい。(たむらあきこ)

「川柳ちぬ」(堺番傘川柳会)「課題佳句寸評(日野 愿氏)」より抄出

どの穴も恥じてのっぺらぼうになる

 醜悪な世だ。眼、鼻、口、耳はそれぞれその醜いものを、見たり、嗅いだり、語ったり、聴いたりしただけで恥じ入っている。みんな塞いで(のっぺらぼうになって)こんな世に処していきたいと作者は思っているようだ。人類だけが持つ凶悪さを諦めに近い眼で視ている作者。題をテーマ、モチーフとして捉えてしかも題意はきっちり消化された文芸川柳である。

陽だまりのあまさ回顧へひき返す

 単なる日向ぼこの句ではない。いつも未来を考え凛と生きていてもそこはあの甘ったるい「陽だまり」にすっぽり包まれると、ふと楽しかった過去などを振りかえってみたりもする自分に苦笑いをしている作者。

向日性を問われてかるくする筆致

 自分の内面をいつも見つめているところから生まれた句のようだ。作者は自分を「向日性」ではなくむしろ「背日性」としていたのかも知れぬ。秘めていた「向日性(光の方へと向くナイーブさ)」を他から言われ、他を容れぬあまりにものひたむきさを改めてみようといっている。それを「筆致をかるくする」という巧みなことばで表している。「筆致」は「生き方」ともとれる。

きみの面目たてるつまらぬ列にいる

 大切な人の「面目」を立てるためには意にそわぬ世俗の習慣とも妥協せざるを得ないと嘆いている。「つまらぬ列」とは何か、読むものに任せているのがよい。

受け継いだもののいくばくふいに笑み

 恵まれた人だけのことではないらしい。財産など物質的なものの充分な受け継ぎは少数であろう。しかし人が個を確立させて生きていくのに、能力、才能、性格といった身近なもの以外に、伝統や文化、もっと遡れば生命発生以来の遺伝的なものまで、「受け継いだ」ものの何と多いことか。それに気がついたとき、思わず笑みがもれてくるとこの句はいっている。時として誰もがいだく感慨であるが句に詠まれることは少ない。

見通しのくらさへ秤にはかけぬ

 ここにも、先行きの不透明さを感じている人がある。そして賢明にも直ぐには決着をつける(秤にかける)ことはせず、自然にまかせるといっている。洞察が習慣となって生きてきた人の句。

飢えすこしあって詩嚢をふくらます

 「飢え」ていないと詩的な考えは浮かばないとこの句はいう。「すこし」がこの句を深いものにしている。満たされない想いが詩人をして詩作に駆りたてるものらしい。

空缶に意地悪などは通じない

 「空缶」は「林住期」を過ぎ、「遊行期」を前にして、身についている俗なるものをみな捨てた作者自身であろう。もはや人間の仕掛ける「意地悪」などは意に介しない境地であるらしい。

生返事も許してきみといる時間

 会話に気のない返事をする男、その男の愛が冷めかかっていることがわかっても、ふたりの時間を持ちたい女。会話(問答)に破局の翳が差している。

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