前田咲二先生は、「〈過去〉(ということば)は使わんほうがいいな」とおっしゃった。それで、ずっとそのように心がけてはきたのだが。川柳マガジン1月号に「特別十句詠」として掲載の「蛇腹路」で、久しぶりに、ためらいながら使ってみた。(下記、4句めと5句め。)
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過去ひとつ突くカラスのぶざまな午後 たむらあきこ
さみしくて過去からえんぴつを離す たむらあきこ
モノローグの途中が過去と手を結ぶ たむらあきこ
過去がまた糸ひくひとりいる時間 たむらあきこ
蛇腹路じゃばらに過去がひっかかる たむらあきこ
わくら葉のひとひら過去を語らない 塩満 敏
雪もよい過去に恋などなかったか 天根 夢草
晒されたまま褪せていく僕の過去 小林 映汎
過去たちが私をよぎるうす明り 平山 繁夫
隠したい過去にゆっくり砂を撒く 米山明日歌
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〈過去〉とは、時間のながれを3つに分けて理解するときの、すでに過ぎ去った部分のこと。我われが〈過去〉と思っているのは、すでに起きたことの記憶である。〈過去〉は記憶としてふり返られる中にのみ存在する。
〈過去〉ということばは、誰でも知っていることばだが、上記の句でその意味を説明するように言われたらむずかしいと感じるかもしれない。〈過去〉は過ぎ去った時という意味だが、もう一つの意味は、隠れた経歴。うしろめたい〈過去〉、消したい経歴の意味もある。誰しも年齢を重ねるほどに〈過去〉の時間は増えるわけで、そういう〈過去〉のまったくない人生は薄っぺらいともいえる。
川柳で〈過去〉を使うと、後者の意味の色合いが出てしまうことが忌避される原因ではないかと思うのである。川柳を(安っぽい)演歌にしてはならない。しかし、川柳で〈過去〉に代わることばがなかなか見つからないのも困ったことである。
続きは次回
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