※2月いっぱいで抄出を終えるため、急いでいます。先生は生前一冊の著書も出しておられないのです。十年間、ずっと「(誰も)いつまでも生きていられないんだし。先生も(本を)出さないと」と申し上げてきたのね。その都度「よし、やるぞ~」と返事はよかったのですが。一時は、短歌も俳句も川柳も一緒にして出すと言っておられたこともあるのです。だんだんトーンダウン、「もう言うな」と言われたのね。
『前田咲二遺句集 平成5年』❼
ふたりとなってからの歩幅へ風薫る
妻とふたりやたらに咽喉の渇く夜だ
古い靴出せ税務署へ行ってくる
羽化終えた蝶に言いたいことがある
ネクタイの裏に内緒の戯画がある
ぼくの土俵に猫だましなどはない
白と黒しかない少年の絵の具
産院の廊下で父の顔になる
ていねいな言葉でばっさりと斬られ
下げているから上げた頭をまた下げる
古代史の中に庶民の貌がない
あきらかに顔をかくしている傘だ
六法の流れ女へ厚くなる
恋の愛のとひとをおもちゃにせんといて
一冊の本からアングルが変わる
母のいくさ父のいくさが眠る墓
日の丸に武運と書いた過去がある
いつも頭にやさしい父の手を感じ
やんわりと話して刺をおいていく
未来永劫 鍵は女の手の中に
父のこころ母のこころがわかる旅
身に覚えないと覚えのあるそぶり
暗夜行路 書いた小さな机だな
冷や汗をライバルに見られてしまう
白手袋にすれば誰でもいい握手
水子地蔵の胸のあたりに吹く風よ
譲れない意地 盃の底に溜め
赴任地に妻の知らない箸がある
初恋の相手を妻は知っている
意気投合 ジョッキの音が高くなる
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