自費出版のあと、そのまま消えていく出版物がどれほど多いことだろう。それらがのちに日の目を見ることは、まずと言っていいほど無い。それでも、最小限生きた証として形に残したいという気持ちがそれぞれの著者にはある。玉石混淆。
嶋澤喜八郎氏から自費出版の句集『牛蛙』(1993年刊)を戴いた。少しして東京の知人から読売新聞「四季」(長谷川櫂)欄に掲載されたということで、「牛蛙」を詠んだ俳句の(掲載紙の)コピーを送っていただいた。「牛蛙」がたまたま揃ったということで両方を記させていただく。
先ずは、「四季」欄の知人の句と、長谷川櫂氏の鑑賞文。
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湯にひたる気分か牛蛙の声は
近くに池のある家に住んでいれば覚えがあるだろう。夏の蒸し暑い夜更けにウォンウォンと闇がふるうような声が響いてくる。あれが牛蛙の恋の歌。生ぬるい池の水に浸ってと思えば、手拭いを頭にのせた、のどかなご尊顔も浮かんでくる。
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嶋澤喜八郎氏の句集(俳句)『牛蛙』(1993年発行)より。
雨蛙 蛙の声で鳴きにけり
三十三年道草も食わず牛蛙
〈妻〉
妻叱るこぶしの花二つ三つ咲く
首かしげて出来ない出来そうもないと
なんにもしてやれない悩みきく
肩に力なくブラウスやたら白く
妻がいても誰もいない部屋
初雪の白さは妻を案じている
今朝も雨の雨戸を妻とひく
花びらの一つひとつが淋しい寒椿
弁当つくって出る一日の長さ短さ
受験子の弁当はしいたけ・シャケ・卵
昨日の落ち葉がそのまま裏向いて
落葉掃き振り返ればまた落葉
怒りも笑いも忘れて手足投げ出して
薬飲んで眠るせめて夢を見よ
今日も働いてきたよ靴下わたす
妻 目を力一杯閉じてあくび
久々に妻が雨戸ひくコトコト
水思い切り出しガスの燃える音
キューリ刻む音心癒えてきたか
妻が蒔いたエンドウも芽を吹いた
眠れぬ苦しみを眠らぬ楽しみにかえて
老眼鏡ゆっくりたたんで眠る
明日は同窓会バッグはスカーフは
梅雨晴れて背後より妻の声
とにかく明日がある妻にも私にも
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教職を退かれたあとの処女句集だろう。いまは俳句と川柳の両立を目指しておられる氏の原点のような句集。
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こんにちは。久しぶりに「牛蛙」を目にしました。「絶対に訂正しない寒卵」この俳句を作った人が身近で川柳を教えてくれると聞き通うようになって8年がたちました。その頃先生から頂いた句集です。
尾崎放哉をどこか思わせる自由な作りに惹かれていました。自由自在に川柳を作句されている先生ですが 三十三年道草も食わず牛蛙 のままのこんにち。原点を大事にこれからもお元気に前を歩いていただきたいです。
また 尼崎句会のおりに、わたくしの処女句集に問ってみよ。とのアドバイス嬉しかったです。有難うございました。啓子より
kawamuraminoruさま
早いもので、8年!!
交差点へは最初の頃から行かせていただいているので、その頃に啓子さんとは知り合っている筈。
よく頑張られましたよね。先生も啓子さんほかスタッフのみなさまも。
いまや月例会が70名にも及ぶ句会に育てられました。
川柳は「こころざしの継承」。句を詠みながらも、次世代への橋渡しを考えていかないといけません。まあ、なるようになってくるものですが。
身の回りがいろいろ大変だとは伺っているのですが、是非とも乗り越えて、それも文芸の肥やしにしていただきたいと願っています。