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 昨年9月27日に師・前田咲二先生がご逝去され、早くも半年を超えた。生前どれほどご活躍されても、年月とともにその名は忘れられてゆく。そのことを思えば、故人の句集の一冊をなるべく早い時期に遺さないことには、私自身が死にきれないのである。私にしたところでいつまでもある命ではない。
 柳誌は散逸する。いま一冊を遺せば、のちにその一冊をよすがに〈横綱〉と称えられた先生の全体像に迫ってくれる研究者も出てくることだろう。とにかく作品を遺すこと。いまは電子書籍という手もあるのだから。(※前田咲二特集号は出版社にもう在庫がありません)
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前田咲二特集(川柳マガジン「柳豪のひとしずく№015」)より28句
四季の花いっぱい挿したあばら骨
自画像に焼酎お湯割りを飾る
わたくしの干潟が満ちるまで遊ぶ
遊ばれているなと思いつつ遊ぶ
黒木瞳が死んでと言えば死ぬだろう

茜色の空を手繰っている夕日
寿命との追っかけっこはやめにする
モザイクをかけて余生を漂わん
ちらほらと春の訃報に紛れんか
いい人生でしたと母に言うつもり

柩の中で顎が外れるほど笑う
十一桁をわたしの戒名にしよう
男ひとり皿を汚さぬように食う
日本語はいいね「一杯やりますか」
信号の赤にまたかと睨まれる

行方不明の刻を聚(あつ)めている夕日
円周率3では丸くなれぬ月
天皇家にも言い分があるだろう
軍隊とはっきり言えば楽になる
靖国参拝するしないするしないする

少年兵の骨も藻屑と呼びますか
靖国で会う約束があるのです
切っ先をいつも自分に向けている
落日よときには叫んだらどうだ
水の底を水が流れている輪廻

首はまだついているかと風に訊く
萎えてゆく目にくっきりとキノコ雲(※先生は江田島の海軍兵学校で終戦を迎えられたので、原爆のキノコ雲を目撃しておられます)
ヒロシマの焦土を踏んだ足のうら
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たむらあきこ特集(川柳マガジン「柳豪のひとしずく№058」)より20句
生煮えの芯に迷いがあるらしい
ことばになるまでの時間が蹲(うずくま)
たましいがときどき択ぶけものみち
妻という椅子の脆さよなげうてば
残像が輪郭だけになってゆく

獏のされこうべを満月が洗う
牛蒡(ごぼう)の脚とてもさみしいひとりごと
ひとりずつ映せばさむい裾ばかり
生卵ぐしゃりと冬の中にいる
おとこの車輪おんなの車輪うそをつく

残像の声をテープに巻き戻す
辻褄の合うまでかげろうを捲る
にんげんを映す鏡のペシミズム
(かんぬき)をはずすと空が入り込む
きみへ炎の残滓が蛇をひしめかす

雑踏に重ねる影としてひとり
どっぷりと浸かれば闇もやわらかい
くちびるの棚を溢れてゆくきのう
わたしという独楽(こま)の炎も暗くなる
約束のように桜が咲いている

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