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 芥川龍之介が逝ったのも、もう93年も前のことなのかと感慨がある。(百年なんて、あっという間のことなのよね)十代の頃、 芥川が好きで、作品を読み漁っていた。自殺しようとする自らの心理を分析した遺書『或旧友へ送る手記』があるのね。

 芥川が自殺したのは1927年(昭和2年)、7月24日。35歳だった。自宅で服毒自殺。原因は、神経衰弱と発表された。いくつかの遺書のうちの一つが、久米正雄に宛てたとされる『或旧友へ送る手記』なのね。下記は、その一部。

 …我々人間は人間獣である為に動物的に死を怖れている。いわゆる生活力というものは実は動物力の異名に過ぎない。僕もまた人間獣の一匹である。しかし食色にも倦いた所を見ると、次第に動物力を失っているであろう。僕の今住んでいるのは氷のように透み渡った、病的な神経の世界である。僕はゆうべある売笑婦と一しょに彼女の賃金(!)の話をし、しみじみ「生きる為に生きている」我々人間の哀れさを感じた。もしみずから甘んじて永久の眠りにはいることが出来れば、我々自身の為に幸福でないまでも平和であるには違いない。しかし僕のいつ敢然と自殺出来るかは疑問である。ただ自然はこういう僕にはいつもよりも一層美しい。君は自然の美しいのを愛し、しかも自殺しようとする僕の矛盾を笑うであらう。けれども自然の美しいのは僕の末期の目に映るからである。僕は他人よりも見、愛し、かつまた理解した。それだけは苦しみを重ねた中にも多少僕には満足である。どうかこの手紙は僕の死後にも何年かは公表せずにおいてくれ給え。僕はあるいは病死のように自殺しないとも限らないのである。… (昭和2年7月、遺稿)

 遺書のなかで惹かれることばが「末期の目」。氷のように透み渡った病的な神経の世界で自殺に向かおうとするとき、いっそう自然は美しく見えるという。それは「末期の目」に映るからだと。死を近いものと感じていたわたしにとって、このことばの意味することは容易に理解できる。短歌でも川柳でも、この美しさを表現することができれば、それこそが文芸の究極なのではないかとまで思うのだ。

 わたしの川柳は、いままでとくにそういうことを意識せずに詠んできたのだが、いまふりかえると深層意識に「末期の目」があったような気がする。「末期の目」から見える〈にんげん〉をすくい取り、ことばとして定着させようとしているのである。下記は、あきこの句。
  何もなかったように鋭く死んでいる
  獏のされこうべを満月が洗う
  遮断機の向こうはきっとわらべ歌
 ちなみに、新家完司氏にはつぎのような句がある。
  あきらめたとき美しくなるこの世

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