わたしは、〈きのう〉を多用する川柳作家といわれている。他作家(敬称略)の〈きのう〉を用いた句とともに10句挙げてみると。
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くちびるの棚を溢れてゆくきのう たむらあきこ
物陰にゆらめいているきのうの訃 たむらあきこ
埋火の鮮やか転げでるきのう たむらあきこ
行方不明のきのうが蛇口洩れてくる たむらあきこ
どうしようもなくきのうが私を出ない たむらあきこ
能面の緒ばかり拾うきのうの川 尾藤 三柳
ぎんなんを拾うきのうを待つように 天根 夢草
書いて消すまだ蠢いているきのう 瀬川 瑞紀
骨壺にきのうは遠き膝の上 前田 雀郎
きのう妻だった女と擦れ違う 鈴木 如仙
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〈きのう〉とはいつのことか。川柳に詠まれる〈きのう〉はたんに今日の前日の昨日とは違う、ということを伺ったのはかなり前のこと。わたしが句に多用するのは、〈過去〉といういかにも手垢のついたことばをなるべく避けたいためである。インターネットで検索すると、『きのうの影踏み』(辻村 深月)という本が出版されている。これも同様の〈きのう〉だろう。語源由来辞典には下記のように記されている。
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昨日は、正確な語源が解かっておらず、「すきのひ(過日)」の意味や、「さきのひ(先日)」 の「さ」の略など多くの説がある。 きのうの「う」は、どの説でも「ひ(日)」の転じたものとし 、きのうの旧かなは、「きのふ」であることから間違いないと思われる。 きのうの「き」は上記のほか、「きそ」「こぞ」など過去を表す言葉の多くが「き」や「こ」で始まることから、それらの音に通じるとする説や、「きしひ(来日)」の略転「きす」が「き」にあたり、「きすのひ(昨日日)」の略転を語源とする説もある。
現在では、今日の前日を「昨日」と言うが、古くは、今日からいつではなく、ある時点より近い過去という漠然とした意味で用いられていた。
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「ある時点より近い過去」というのは、私の句が心象句であることから、遠近を問わずどのあたりの過去であってもよいということになる。遠い過去も引き寄せれば昨日のように近くなるからである。
続きは次回
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