『五十句集』 加藤当白
当白の部屋。遺影の祖父へひとりごと。「おじいちゃんが句集を出したのは晩年になってからじゃんね。若い頃に出そうとは思わんかっとうけ?俺もいずれはおじいちゃんみてぇに、生涯に一冊でも句集が出せたらいいなって思ってるさ。川柳やり始めてからたったの5年弱だし、まだまだ先の話ずらけんど。このへんで今までを振り返らっかと思って、架空の句集を作ってみたさ。ちょっと見てくれるけ?」
『五十句集』 加藤当白
自己紹介を兼ねたまえがき
昭和52年生。山梨県南アルプス市出身・在住。柳歴5年弱。無所属。句会経験ゼロ。大会参加回数5、6回。主な活動はラジオやインターネットの句会で、雅号などと畏れ多いものではありませんが、投句時には、川柳人であった祖父・加藤當百(当百)をモジって加藤当白と名乗っています。これまでの入選句数は350句ほど(打率はわかりません)。こうして見返してみても、自分の作風というものがロクに感じられません。今後の方向性を考える機会とすべく、この度、入選句一覧から拙句を並べただけの『五十句集』を発刊することといたしました。
内観Ⅰ
留守電にまだ生きていた父の声
間取り図に詰め込む夢を加減する
失敗を笑い話にして諭す
囲まれる生まれたときと死んだとき
シャッターを開ける家族を背負う音
本題へ切り出せないでいるコップ
同じだけある上り坂下り坂
切り札にしておく「好き」というセリフ
時計からまだ慰めをもらえない
本棚に並んだ僕の栄養素
終着の見えぬダイヤをひた走る
覚悟した分だけ重くなる扉
僕にしか出せない音がきっとある
静観
賑やかに散ったオモチャに添い寝の子
日本が生んだ躾という漢字
ロリンズの唾がレコードから跳ねる
浴槽の海で津波を子に教え
屋上で靴は揃えるものじゃない
スロープのゆるさはやさしさのかたち
愛されるプーさん 射殺される熊
フラッシュの光が暴きだす現場
SとNだから仲良くなった友
消火器に平穏無事という埃
空席が目立つと来た人も目立つ
不祥事に恵まれ活気づく野党
草むしり名を知ってから捗らぬ
シンクロニシティ
転調の度にでっかくなる翼
地下牢の鍵を握っていた科白
しなやかに威力を隠す水でいる
グラウンドゼロに芽生えた意志である
茶を啜る蓋然的な死を越えて
野放しの思考に箔がついていた
聖域がまだある脳の展開図
卵殻の穴から釣り糸を垂れる
点と点から全貌を炙り出す
ずかずかと神に立ち入る物理学
内観Ⅱ
貧しさが自分以上を呼び覚ます
棺桶の幅 あらためて死はひとり
道すがらふらりと寄ってみたこの世
黙考を迫るジョン・ケージの無音
まっさらな紙に決意を迫られる
一生をかけて私を彫り上げる
強烈な自我へ落款などいらぬ
ありのまま響く開放弦でいる
解釈の自由は生き方の自由
緞帳が下りて答えを聴いている
ぬくもりも髭の痛さもある記憶
本人を前に本音が曲がりだす
ポケットへいつも初心を入れておく
生きるとは自分史のノーカット版
自省を兼ねたあとがき
はじめに「シンクロニシティ」について。身の程もわきまえず、畏れ多くも初めて応募した『第15回川柳マガジン文学賞』、雫石隆子先生より「秀逸5」をいただいた拙作です。発表誌には名前のみの掲載で陽の目を見ることもありませんでしたので、この度の句集に組み入れてみました。
それにしても、自選のなんと難しいことでしょうか。いかんせん独学ですので、どれが良くてどれが良くないのかの判断が、なかなかつかないのです。なるべく自分を客観視しようと思うのですが、どうしても主観が拭いきれない。自分では自分のことをよくわかっているつもりでも、川柳として表現されたものを見ると大した思考の産物ではなかったり、一方ではまるで考えもしていなかったことが閃いたり。まだまだ自分に未知の世界が潜んでいるのだと考えれば楽しくもあるのですが。
私の敬愛する奇才ギタリストが絵画をやり始めた頃、描くにあたって自らに二つのルールを設けたそうです。すなわち、「考えない、批評しない」。川柳は文芸ですから「考えない」で詠むのは難しい。ただ、もうひとつの「批評しない」は参考になりそうです。自分の感性を信じ、内に潜んでいるであろうものを掘り出し、形を与えていく。自分の思うように、好きなようにやる。良し悪しは二の次。こういったスタンスが、知らず知らずのうちにその人独自の作風となっていくのだと、今は信じています。
祖父から「よし」の一言が聞こえるまで、今後も精進を続けてまいります。
令和2年1月 加藤 当白
「面白半分に作った架空の句集。こんなモンじゃ、おじいちゃんから喝を入れられちもうかもしれんね。まぁ、自分で気に入ってる句を厳選したつもりだから、ひとつの通過点として大目に見てくれるけ?これからも一喜一憂する度に拝みに来るから頼むね」
当白の部屋。遺影の傍らには、祖父が戦前から書き溜めてきた分厚い句帳が2冊。そして当白の入選句を印刷したファイルが4冊。時の止まった句帳と、現在進行形のファイル。「おじいちゃん、俺にわからんようにえらい重いバトンをくれたじゃんけ!」
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