わたしの作句法 たむらあきこ
作句法などというものは川柳人一人ひとりがそれぞれ時間をかけてつかんでいくもので、一般的な作句法というものはないのかも知れないが。ほぼ20年の柳歴のわたしが、いわゆる作句法ということでもっとも影響を受けたのは、大阪・堺在住の故・墨作二郎師の主宰する「現代川柳・点鐘の会」が毎月催す「点鐘散歩会」という吟行会だった。
川柳を仲間たちと一緒に多数吟じながら歩くことは、まずは作句における集中力をつけてくれた。俳句や短歌同様、名所・旧跡に出かけるとやはり詠みやすいということはある。川柳は人間を詠む文芸であるから、想いを引きだせる何か(誰か)の(足)跡があれば、どこでもそこが吟行の場になる。
「点鐘散歩会」への初参加は、もう十年以上前のことになる。川柳文学コロキュウム句会出席の折、隣席の作二郎師からおさそいがあった。その日は作二郎師の選で、たまたまわたしの《わたくしの中の傍観者に当たる》が秀句をいただいたことがきっかけだった。
「点鐘勉強会」では、短時間で多作の経験を積ませていただいた。その作句法が性に合っていたのか、最初から入選句も多く、毎月和歌山から出かけ、回を重ねていった。「点鐘散歩会」の吟行は出句無制限。各々要るだけの句箋をいただいて指定の場所を一時間ほど歩き、その場で浮かんだ句を書きつけていくという方式。参加者がそれを手分けして清記、数百句に及ぶ集句の中から、各人わずか十句ずつを選ぶという厳選互選方式だった。
散歩会に集まるのは川柳作家として力量のある方が多いようだった。ここで数年間鍛えていただいた。毎月発行された冊子「点鐘じゃあなる」に得点別集計が残っている。この方法は、机上の作句に行き詰まったときなど、深層心理から思いがけない句をつかみ出せる可能性がある。
つぎは一例として、手元の「2013/12/17 – 点鐘じゃあなる」から抄出。12月4日の散歩会の参加者は23名。墨作二郎、德永政二、中野六助、清水すみれ、藤井孝作、八木侑子、八上桐子、森田律子、畑山美幸、北村幸子、北原照子、笠嶋恵美子、河村啓子、嶋澤喜八郎、行田秀生、岩田多佳子、小川佳恵、江口ちかる、西田雅子、内田真理子、太田和子、岩根彰子、本多洋子の各氏。当日の入選句の中から一人一句の計23句を選ばせていただいた。
石垣のすき間の石でしたずっと 幸子
靴箱の三段目から東海道 すみれ
白かべは逃げられなくて白いまま 多佳子
ロープだらんとちょっと許してくれている 彰子
あの雲は呼んだらくると思います 政二
一日の縦に縮んでくる師走 桐子
あの瓦そろそろ空を飛ぶ気だな 六助
天辺にいるのに背伸びしたくなる 律子
本丸の虎は帰って来た後だ 和子
古井戸のロープを探しにいってます 啓子
石垣の窪みに溜る冬の影 恵美子
秋から冬へ対角線を引きなさい 雅子
襖絵にまぎれ込んだら一泊二日 美幸
口上をうかうか落とす冬の使者 真理子
京阪特急江戸後期までつっ走る 洋子
海亀の甲羅となった松の幹 佳恵
二の丸御殿の避雷針から猿飛佐助 秀生
ただれた秋とくすんだ御門 侑子
欄間から淡い光のおこしやす 照子
わら化粧して六人家族の蘇鉄です ちかる
鴨川に身を投げたのは日輪か 喜八郎
ひと回りして結界へ出でにけり 孝作
水音を覗いています一口城 作二郎
散歩会には誰でも当日参加できた。移動や昼食の時間を除けばわずかな時間の吟行だが、九十句から百句ほども詠んでいただろうか。激しい修行のような会なのである。昼食をはさんで清記、互選。集句は千句を超えることもあった。その中から前述のとおりわずか十句を選ぶのだが、その厳選がむしろ心地よかった。散歩会は平成8年3月に始まったらしいが、平成20年4月号に、作二郎師は次のように記している。
…散歩会の考え方は当初と変わりなく「外へ出て書く川柳」で、直接自然の変化や世情の流行や変幻を体感することで、知識の内容を吸収して、今に欠けている川柳のこれからを見出したいのである。芭蕉は旅を通して風雅の心を養い、自己の芸術をより高める方便としている。このことに学んで正岡子規は俳句に写生を提唱し、碧梧桐・虚子らに継承されている。実作の一方法として吟行があるが、これは外へ出て、自然の景物に接し、目の前の景を見て作句する「嘱目」が基本である。…
机上で詠んでいるだけでは、たしかに煮詰まってくる。吟行は、類想を絶つ方法でもある。対象に触発され、意識下から句をつかみ出す。嘱目は単に句作のきっかけであればよいので、発想をとばして何を詠んでもよい。勉強にはなったが、わたしが途中で参加しなくなった理由は、集団で吟行というところにあった。もっと集中して句を詠み、さらに推敲の時間が充分にほしかったのである。散歩会では、残念ながら推敲の時間がほとんどなかった。しだいに散歩会にでかけるまでもない、一人でもできるということになった。仲間がいるほうが詠みやすい方もおられるだろうが、わたしのように行きづまる場合もある。結局作句法はそれぞれの個性ということだろう。しかし、わたしの作句法のいまに至る原点が散歩会にあったことは否めない。
つぎに、ふつうの句会・大会出席に向けて実践している作句法を、参考になるかどうかは分からないが記させていただく。常に、頭の中に透明な袋を入れて持ち歩いている。袋の中には、いろいろなことばが詰まっている。よく見えるように、つかみ出しやすいように、ときどき攪拌。書店の新刊書、あるいは吊り広告などにも立ち止まり、こころに響くことばを掬いとって入れる。ことばはもちろん単語のみ。他人の苦心のフレーズをそのまま掬いとってはならない。わずか十七音の川柳でそれをしたら、盗作になる。
【具体的な作句法】
兼題「面」
❶前記の透明な袋からいくつかのことばを拾いあげておく。
A驟雨 性急 砦 回顧 凹凸 忿怒
❷作句までに、辞書で「面」の意味を調べる。
Bかお。おもて。つら。顔に似せて作ったもの。また、顔につけるもの。
❸さらに熟語も一応書き出しておく。
C凹面 鏡面 面取り 鬼面 仮面
➍A、B、Cをながめながら、浮かんだことを順に書き留めていく。直感的に閃いたことを書き留めるので、コツはあまり考えすぎないこと。一分に一句ほどの速度。
実作例
凹んではおれぬ鏡の顔正す かなしみがすこし覗いている鬼面 わたくしの独りがだしてくる鬼面 鬼面から雨のしたたることもある 落下するものの性急鬼面から わたくしを隠す仮面を整える 整えてみれば砦とおもう面 あわ粒の顔引きよせている回顧 折り合えぬ顔へ忿怒がでてしまう 折り合えぬ顔へちいさな哀を積む
❺上の句を推敲。数分、場合によっては数年を要する。(※「天守閣」掲載の一文とは少々異なっております)
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楽しみにしています(^^♪
はんじきさま
はい。
少々お待ちください。
一般的ではないかもしれませんが、ご参考にはなると思います。
大変参考になりました(#^.^#)
はんじきさま
よかったです。
そのように言っていただければ。(*^^*)v