Loading...Loading...

「難解句鑑賞 №002」(川柳マガジン10月号から転載)

アンティークドール手足切っても笑ってる  斎藤大雄
 アンティークドールは、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、フランスやドイツで制作されたビスクドールと呼ばれる人形。ヨーロッパのブルジョア階級の貴婦人や令嬢たちの間で流行した。
 美しく、愛らしい。その人形の顔に、怒りや哀しみ愛憎など極めて人間的な情感を見出したのが画家や写真家。華やかな衣装を脱ぎ、人間のような顔つきをしている人形たちは、鏡に反転して映し出される自分の姿でもあるかのよう。昭和洋画史に名を残す巨匠たちもこれらの人形に魅了され、多くの作品を描いた。「手足切っても」の残酷と、「笑ってる」表情の無垢との二物衝迫。

大きな桃が横を流れてくれている  八木 千代
 「大きな桃」とは途轍もなく大きな桃。なぜそんなに大きいのかといえば、ご存知の通り人間の赤ちゃんが入っているからである。なぜ、どのような経緯で桃に入ってしまったのか。いずれにせよ「桃が(作中主体の)横を流れて」そこから物語は始まる。「桃」は入れ物だが、中の赤ちゃんは未来への希望ということだろうか。「くれている」からは、その希望が在ることへの安堵が感じとれる。

トランクはダークサイドも知っている  麻生 路郎
 「ダークサイド」はもちろん暗黒面。「暗い部分」あるいは「悪い部分」とも言い換えられる。「トランク」の重厚な存在感が効いている。一般的ではない、犯罪など色々な暗い場面での「トランク」の使われ方を想像させられる。

仙人を他人などとは思わない  井本 智治
 
「仙人」は禁欲に徹するとする伝説があり、一般にそのように思われてもいるが、久米仙人や一角仙人は色欲により神通力を失っている。句の「仙人」とは、両仙人のような人間臭い「仙人」を指しているのではないか。
 道教の源流の一つとなった神仙とは、東の海の遠くにある蓬莱山や西の果てにある崑崙山に棲み、飛翔や不老不死などの能力をもつ、人にあらざる僊人(仙人)や羽人を指す。やがて方術や医学が発展すると、人でも、ある方法を積めば仙人になれるという考えが興ったとか。この句、あるいはその意か。

ブルーシートの中の宇宙は真っ赤  尾崎 良仁
 ブルーシートとは、ポリエチレンなどの合成樹脂製シートのこと。ほとんどの汎用品は青色であることからこの呼び名が一般化。不透水性をもち、折り畳めば軽くて場所を取らずに収納でき、安価で丈夫。手軽でまた耐候性の高いことから、路上生活者の仮設住居の材料として常用されている。句の「ブルーシート」はまずそれだろう。仮設住居で暮らさざるを得ない人々の、格差社会への憤り。
 「真っ赤」は、革命旗が赤色で、共産主義者の隠語が〈アカ(赤)〉であるところから来ているのだろう。

ポストする LINEで送る ブックマーク
❤️ ひざポン
ありがとう!

気軽にポチっと
どうぞ(無記名)

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Post Navigation

Copyright All rights reserved. SHINYOKAN PUBLISHING illustration by Nakaoka.K