風になびく富士の煙の空に消えて ゆくへもしらぬわが思ひかな (西行、1118年 -1190年)
風になびく富士の噴煙が空に消えてゆく。その煙のように私の思いもどこに行こうとするのか、行方もわからない。
この歌を詠んだ西行法師は妻子を残して出家、生涯流浪の旅を続けた。この歌は思いを行くあての知れない煙になぞらえ、自身に問いかけている。有名な一首だが、山家集には収録されていない。西行上人集が初出。1186年の二度目の陸奥までの旅の時のものとみられる。
〈一切は空(くう)〉という、西行の晩年の心境を感じさせる。富士の煙にかさねた西行の思いとは。ふり仰いだ富士の頂から立ちのぼり大空に消えてゆく噴煙のさまは、西行の胸に湧いては消え消えては湧くといったとどまることのない思念のようだと。広大無辺の宇宙のひろがりさえ感じさせる一首。富士山にいま噴煙はないが、富士山周辺吟行では西行のこの歌を思って同様の感慨が脳裏をよぎるかもしれない。〈一切は空〉といえば、私の川柳(吟行句、越中八尾《おわら風の盆》30句 より)に《いっさいは空編み笠に貌がない》がある。西行の歌に通底するところのいささかはあるかもしれない。(たむらあきこ)
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