「せんりゅうくらぶ 翔」の宮村典子氏からご依頼の近詠鑑賞文「万華鏡」。先日和歌山の「番傘とらふす」誌近詠、「啄木鳥(きつつき)抄」鑑賞文の最終回を書き終えたところ。二つの柳誌を較べると、地域性なのか提出されている句がかなり違っている。
「番傘とらふす」誌は2年間なるべく多くの方々の句をと、一人ほぼ一句に絞って鑑賞させていただいたが、「せんりゅうくらぶ 翔」誌は短期間なので、この句と思う句だけを拾わせていただくことに。下記は「万華鏡」、一回目の鑑賞文。三重の風「せんりゅうくらぶ 翔」の句をみなさまに、ご参考まで。
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万華鏡
★説明書あれば自分が分かるのに にしだちせ
「自分」とは、人間とは何か。どこから来て、どこへ行くのか。少々哲学的になるが、いちばんの難問かもしれない。それを解くため「説明書」をもってきたのが、今時の高校生らしい。
★お荷物にならないように車間距離 河合恵美子
「車」と「車」。あまり付き過ぎると、前の「車」に負担をかける。前の「車」とは作者のご子息か。いつか「老いては子に従え」のことわざ通りを心掛けるようになった。遠慮がちに。
★誕生日母にお礼が言えました 松本 淳子
「誕生日」は、長く母から祝われるものだったが。それなりの年齢になり、母の苦労も分かった今、これまで心配をしてもらったことに対して心からの「お礼」を言うことができた。
★休日をパジャマ姿ですり抜ける 浅利猪一郎
「すり抜ける」が面白い。あっという間に終わってしまう「休日」。パジャマ姿のまま、ひたすら日頃の疲労回復に努める作者。
★あの世でも群れているのか曼珠沙華 柳 緑子
「曼珠沙華」は彼岸花、シビトバナとも言われる。田のあぜ、墓地などに群生。秋の彼岸の頃に見せるその姿は、どこかこの世のものならぬ風情。毒々しくもある。
★迷い子札付けねば父がもどれない 水谷 一舟
認知症の「父」なのだろうか。いま日本はかつて経験したことのない高齢化社会に直面している。認知症の老人を抱える家族の悩みは尽きない。この国のあちこちに同じようなことが起こっている。
★幾度も折れた心が餅のよう 空 健
「餅のよう」の直喩が面白い。何度も挫折したことで人間が練れてきたということか。硬直したのでなくてよかった。
★ぽこんぽこん夏を追い出す遠花火 本城 恵美
「ぽこんぽこん」のオノマトペが面白い。なるほど、そう言われればそう聞こえる。「夏」の終わりの、最後の「遠花火」。
★朝刊がチラシを抱いて待つポスト 本城 恵美
さりげなくそのままを描写。「抱いて」の擬人法が巧い。
★老い早しジベタリアンになり果てる 菅山 勇二
「ジベタリアン」はベジタリアン(菜食主義者)をもじった造語。作者は老年なので、通路などに座り込む若者の「ジベタリアン」と同じというわけではない。農業に勤しんで、土に近い生活をしておられるということだろうか。
★妻と子と孫に白紙の委任状 菅山 勇二
この句も「老いては子に従え」。作者は信頼する妻子と孫にすべてを任せきっておられるようだ。
★「さようならまたね」が嘘になってゆく 菅山 勇二
日毎に進む老いから誰も逃れることはできない。老いの自覚が、「さようならまたね」の「また」を覚束なくしていることに想いが及ぶ。守りたくても、守れない約束もある。
★女房の後ろを歩く健康法 菅山 勇二
「健康法」は妻の後をついていくことだと言う。しっかり者の妻に頼り切っている。老後を安心して委ねられる妻がいることの幸福。
★彼岸花同じ顔して同じとこ 市川 元久
〈見つけ〉の句。「同じ顔」「同じとこ」と。そういえば確かに。
★良いことがあると信じて曲がる角 新 万寿郎
何かを決断するとき、それが現状からの大きな方向転換であるほど思い悩むもの。今は「信じる」しかないと。曲がってみれば新しい景色にも出合い、「良いことがある」かも知れない。仮に無かったとしても、そのときはもう一度別の角度に曲がってみればいいだけのこと。
★人間を休む 洪水注意報 宮村 典子
さまざまな人間関係に疲れたので、今は少し引きこもって「人間を休む」ことにすると。そのうち傷も癒えることだろう。「洪水」は作者の涙。
★薄皮の下で地球が煮え滾る 大野たけお
薄皮まんじゅうという和菓子がある。このまんじゅうを地球に見立てる。巨大なマグマの上の、ほんの「薄皮」のような部分に乗っかって一瞬の生を生きている我々。その危うさ、と。
★設計と違う軌道を回る日々 大野たけお
誰もが入口で「設計」した通りの人生を送れているわけではない。価値観の大きく変わった世の中。ささやかな我々の人生だとしても、その中で生き甲斐を感じて日々生きていけるのであれば。何が幸せかは分からない。
★暇なとき僕のハイドが目をさます 大野たけお
ジキル博士とハイド氏。二重人格とまでは言わないまでも、二面性くらいは誰でももっている。そういえば「小人閑居して不善を為す」ということわざもあった。
★授業中ノートに散らすマイ世界 にしだちせ
「散らす」が巧い。「マイ世界」も高校生らしく新鮮。作者の若さが羨ましい。自分だけの表現を研いて、よい川柳をこれからも書き続けていっていただきたい。
★朝夕の静けさに耳かたむける 中澤 小雪
「耳かたむける」対象が「静けさ」だという。「静けさ」の中の、微かな鳥や虫の声。この句も巧い。
★メガネとはつけてる人のたからもの 西田 青氷
「たからもの」は、人によって千差万別。「メガネ」がないと何もできない人のことを作者はよく知っているのだろう。小三。川柳を通じて、物事をよく見る目をやしなっていってほしい。(たむらあきこ)
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