真剣になるとポキポキ折れる枝 鳥海 ゆい
「真剣」は本物の刀剣。木刀や竹刀に対していう。その「真剣」はさておき、人間の「真剣」は折れやすいと。生真面目な人は柔軟性がないため、折れやすいのである。
たいていの人は仕事中は真剣な顔で取り組むが、休憩やランチタイムなどには笑顔を見せる。ところが、生真面目な人はオンオフの切り替えがないため、周りが楽しい雰囲気でも冷静、笑顔になることもあまりない。そのため周りから付き合いにくい、冷たい人だと思われることもある。
ずっと生真面目にやってきた中年のサラリーマンが一度挫折すると、「こんなに頑張ったのに無駄だった。もう頑張っても同じだ」と自棄的になることがあるらしい。無気力状態に陥り、何をする気にもなれず、疲労感まで感じるようになるとか。この状態が続くとうつ病になることも多いらしい。「真剣」もほどほどにということだろう。
神話ひとつ獏の死以後のことである 寺尾 俊平
「獏」は空想上の動物。熊の胴体、虎の四肢、牛の尾、象の鼻、犀の目、猪の牙をもつと言われる。鉄や銅を好んで食べ、その尿には金属を腐食し溶かす作用があるとか。一般に人間の夢を食べるという俗説で知られるが、これは日本で独自に発展した説であるとか。
ちなみに現存する動物のバクとの関連性については、『かつて中国にもバクが棲息していて、それが獏のモデルになったとする説』や『元々空想上の動物としての獏が先にあって、後に発見されたバクにその名前が冠せられたとする説』など諸説あるらしい。
この句、「獏」は夢を追って生きる人間の暗喩。川柳人もその範疇に入るだろう。その中でごく少数の天賦の才を称えられた人々が亡くなったあと、それぞれの「神話」が立ちあがる。
耳塚に風 ガクンと人形の嗚咽 野中いち子
戦国時代までの武士は戦功の証として死体の首をとって検分、あと首塚で供養していた。足軽など身分の低い者は鼻や耳でその数を証したという。運搬中に腐敗するのを防ぐため、塩漬や酒漬にして持ち帰ったとか。
京都市東山区、豊国神社門前によく知られた「耳塚」がある。豊臣秀吉の朝鮮出兵(文禄・慶長の役)のうち、慶長の役で戦功の証として討取った朝鮮・明国兵の耳や鼻を削ぎ持ち帰ったものを葬った塚。二万人分の耳と鼻が埋められているという。
この句、その歴史を知って「耳塚」の前で項垂れ、「嗚咽(おえつ)」をもらした「人形(人)」がいると。
人形のくちびる昨日より赤い 木野由紀子
「くちびる」が真っ赤なのは虚熱状態によるものらしい。虚熱とは、疲労や老化で消耗して体内の水分が減るため体温が高くなっている状態。からだが弱っているので、ほおや唇、舌など局所的に赤くなる。口が乾いたり、手足がほてるなどの症状をともなう。不調のサインなので、少しずつ水分を摂り、十分な休養が必要とのこと。
この句、鏡に映る自身の「くちびる」のことを詠んでいる。トシのせいか最近疲れやすくなった、くらいの自覚はあるのだろう。「人形」で自身を客観視。
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