あなたならどう読む?❻‥「難解句鑑賞 №006」
昼月や傾くものの血を愛す 進藤 一車
かぶき者(かぶきもの。傾奇者、歌舞伎者とも表記)は、とくに慶長から寛永年間にかけて江戸や京都などの都市部で流行。異風を好み、派手な身なりで常識を逸脱した行動に走った者たちのこと。茶道や和歌などを好む者を数寄者と呼ぶが、数寄者よりさらに数寄に傾いた者という意味。
当時男性の着物は浅黄や紺など非常に地味な色合いが普通だったが、かぶき者は色鮮やかな女物の着物をマントのように羽織ったり、派手な服装を好んだ。異形・異様な風体が「かぶきたるさま」として流行したという。
徒党を組んで行動し、乱暴・狼藉をしばしば働いたらしい。こうした身なりや行動は、常識や権力・秩序への反発・反骨の表現としての意味合いもあった。仲間どうしの結束や信義を重んじ、命も惜しまない気概と生き方の美学をもっていたとか。
かぶき者の文化はやがて姿を消していくが、その行動様式は侠客と呼ばれた無頼漢たちに、美意識は歌舞伎という芸能の中に受け継がれていく。
「傾くもの」とは、まさにそのような人々のこと。作者の中にそのような「血」への共感・憧れがあると。「昼月」が、現代を生きる消え残ったかぶき者たちを暗示している。
信じてはいけない舌の厚みでしょ やすみりえ
「舌」の大きくて薄いのはおしゃべり、手のひらのように厚いのは女性なら家庭でも妻や母親としてしっかりしている、幅が狭くて長ければ嘘をつきやすい、短いのは物事が滞る、幅広いのは堅実な仕事が向いているとか。「舌」について言われていることはいろいろある。
「舌」の「厚み」が一般人の二倍あったと言われるのは北大路魯山人。彼はつねに自分が信じるもの、不変のものを追求し続けた。それが書であり、陶芸であり、星岡茶寮に於ける美食倶楽部だった。ただ、信じるものはひたすら自分のみであり、その頑なな性格がわざわいして反発を受けたとも言われる。
この句は「信じてはいけない」と周囲の誰かの「舌の厚み」をネガティブに詠んでいる。これは自身の経験則によるものなのだろう。
人生に深み 雨、雪、夜の景 江畑 哲男
「深み」を感じさせる人とは、相手を許容できる人かもしれない。それは自らの悲しみや苦しみの経験がもたらしたもの。そうした経験によって、人はいろいろな人を受け入れられるようになる。こうした人は一緒にいて落ち着く。自分が受け入れられていることが分かるからである。
この句、「深み」を与えてくれた「雨、雪、夜の景」は「人生」のいろいろな時期の暗喩でもある。
バイブルはバイブルの影手と共に 森下 冬青
「バイブル」は英語で聖書。「影」は比喩的に使われている。元の存在である原像と、二次的存在としての影像という観念がある。プラトンは、我われの見ているもの、現象世界は、真実在世界の「影」であると言っている。「影」は原像の姿を暗示し、類似した形をもつが、原像の実在そのものとは異なると。「影」は魂に付随する第二の魂でもある。
原像の「バイブル」に対して「手」の中にある「バイブル」は「手」も含め「影」であると。「手」という肉体の一部が象徴する我われの〈生〉と見えているものも「影」に過ぎないと言っている。
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