『前田咲二遺句集 平成11年』
貸金庫に遺言状を入れてある
酒が出て軽い話になってくる
香奠と思って払ろてくれないか
年の離れた女と春の歩を合わす
お産休暇くれと男が言えますか
こんなわたしを好きとはけったいな女
耳に穴あけて男が弱くなる
猫も男も恋に嵌って戻らない
別れ際のことばが胸にひっかかり
クリントンを羨み妻に睨まれる
脱け出して渦の外から渦を見る
「君が代」は曖昧模糊のままがいい
時に血を時に涙を流すペン
鍵束を外れたがっている鍵だ
セピア色の記憶に風を入れている
肩で泣き背中で泣いているおんな
一病と二人三脚して生きる
一番後ろの席で居眠りするつもり
天辺を争う百舌鳥を嗤えるか
主役にはなりたくないという写楽
甘ったれるなと鏡が言うている
貸金庫にぼくの重荷を入れてある
天地無用 楢山行きのダンボール
うさぎ跳び百回 虹が見えてくる
笊で水掬いつづけている 祈り
停年の笛を半音下げて吹く
カーテンは白 飾らない仲で住む
跳び箱を一段下げて二度の職
かぜ孕むカーテン臨港十五階
投げ返すことばを一つずつ磨く
両の手で裏返し観る黒利休
神に触れ悪魔に触れてメス運ぶ
嫌だなあサビ抜きの寿司食う男
黍団子すこし大きくして誘う
ぼくの秘密を知っていそうなカメラアイ
水虫よお前も古稀を迎えたか
貸金庫にぼくの内緒を入れてある
できるなら時を贈ってくれないか
標準語使うな酒がまずくなる
さくら見てきた目に暗し阿弥陀堂
トドメ刺すように女の河内弁
不審船へ当たらぬように弾丸を撃つ
騙し絵の中にかくれているわたし
一枚のハガキと響くものがある
自販機にシワを伸ばせと叱られる
一城の主で米を研いでいる
二で割った余りは妻が持っていく
三日月に中途半端が吊ってある
犬かきで恋の浅瀬を泳ぎ切る
飲めぬのにお酒の席にいてくれる
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