「そういうのを迷惑メールって言うのよ」と教えられてはみたものの、それほど迷惑には感じなかった。早朝や深夜に叩き起こされることはない。発信者からすれば、こちらはお客さんだから、喧嘩を売るつもりはないのだろう。手を変え品を変え、こちらの嗜好を探っているらしい様子がいじらしい?Eメール・受信ボックス・削除のキーを押すうちに、「あなたは犯罪に関わったようだ」といったようなメールが届く。擽った後は脅しか?最終版のメールは傑作だった。「○○○子さんが危篤状態です。」続いて「今朝6時○○分にご逝去されました。ついてはご遺言により、あなた様に15億円ほど入金しなくてはなりません。成年後見人▽▽▽」勿論、ご逝去された方の氏名に心当たりはないし、なによりも15億円は桁が違い過ぎて現実味がない。
妻に「いい加減になさい」と言われたのは、発信者でなくて団扇だった。ケータイを主にメモ帳代わりに重宝している団扇は、具体的な迷惑に気付きもした。そうそう、やたらに蓄電の消耗が激しいのだ。
auの若いスタッフは、団扇のケータイの待ち受け画面を見るなり「おや、こんなことをなさってるんですか」と頓狂な声をあげながら妙な仕草をして見せた。実にヘタクソな振りで、最初は理解に苦しんだが、それは扇子を箸に見立てて蕎麦を手繰る仕草のようであった。「迷惑メール」を送る方も送る方だが、楽しんでいる方も良い勝負だと思ったらしい。はなはだもっともなことだ。若いスタッフは数十秒の操作で、メールを遮断してくれた。それっき迷惑メールはパッタリと途絶えた。
表に出ると外気は妙にヒンヤリとしていて、ブルッと身震いをした。なぜか禅智内供を思い出した。
12桁がそろそろ届くのかなあ?こいつは、迷惑メールよりも剣呑な気がする。「首を傾げる気分があったら、みんなして半年ほど放っておけば安楽死するんじゃないのかな」なんて考えている団扇は呑気者なのかなあ?
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