時の帝がお住まいになるごく近くに私の屋敷はあって、歌を詠んだり碁を楽しんだり、琴や琵琶に心傾けたりしながら暮らしておりました。今思えば、かれこれ千年にはなりましょうか。あの頃の私はそんな先の世界までは思いを馳せることも出来ずに、短い命を嘆き、必ずや現世に生まれ変わることだけを祈っていたのでありました。それも姫として生まれ、何不自由なくこの世の悦びといわれるものに囲まれて暮らすことを。
夕焼けの色が、私の記憶の深い深いところまで届きました。うっすらとではありますが、確かにそうだったと思えるのですから間違いはありません。やっと人間に生まれ変わっていたのです。私です、めぐみという名のこの存在です。きっと千年の間には、様々なものとして命を得ていたのでしょうが、その痕跡はこの体には微塵もありません。
願いは半分だけしか叶いませんでした。なにより姫ではなかったのです。あの方との再びのめぐり逢いもきっと望めないのでしょう。喜んでいいのかどうか、心は揺れ動きます。あの頃愛でていた和歌も、今ではサラダやチョコレートがはばを利かせています。長い年月の間に、三十一文字には十七音字が肩を並べているのです。
そんな夢を見たような、美しい朝焼けでした。空の金色が消えかかる頃、姫ではない私は目を覚まし、御付きの下女のように廚などくるくると動き回っているではありませんか。あの頃の私の願いはいずこへ消えてしまったのでしょう。これだけ変わってしまったことを思えば、また千年後には思いもよらなかったような世界になるのかも知れません。また生まれ変わる願いをかけても良いですか。姫でなくても、恋がなくても、五七、七五の調べだけはきっと・・・
かりそめの姿にかりそめの言葉 めぐみ
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