人里から程よく離れた森の近くに煌々と光を放つお城があります
いつとは決められていないある夜のこと
これから集まる人々は
名前を語ってはなりませぬ
顔をあからさまにしてはいけませぬ
誰も彼もそして私も
仮面を外すことはできないのです
お望みの物は様々に取り揃えられ
メイドや執事が丁寧な挨拶で迎え入れます
たとえ姿形からお見通しであったとしても
今宵だけは知らぬ人同士のダンスパーティー
夜の更けていく深さのほどに
踊り続ける恍惚感とアバンチュールに酔いしれていくのです

もちろん誰も知らないことになっているのですから
夜明けと共に大胆に抜け出して
舞踏会のその先の甘美な時間を我が物にしようと
それが若者であっても世間には立派な大人であっても
咎めたりする者はありません
急いでいるのは逸る気持ちを乗せた乗り物の思い込みです

逃げるようにお城を離れる人たちを
追いかける術は私には無く
踊り続けた後の心地よい疲労感が
すっかり解放された心をそっと包んでいるのでした
次々と踊ってくれたきっと王子さまたちのことを思いながら
今日はガラスの靴は大丈夫なはずと足元に目をやれば
どなたの落された仮面でしょう
そう
私ももう仮面を外していつもの私に
戻らなければなりませぬ
エプロンの似合うお城に住んでいる めぐみ
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渡辺柳山_こころの調べ_ISBN978-4-8237-1444-3.webp)


