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 最後の手段となる電気ショックが始まる。はだけた男性の胸には既にパッドが付けられていた。青年の指示で集まった周囲の人たちは全員後ろに下がって息を呑んだ。機器の音声も体から離れるように言う。
 いよいよショックのスイッチを入れる。わずかの時間で男性の意識が少し戻ったような、眠りから覚めたような顔を見せた。連れの女性が「あなた!あなた!」と何度も何度も叫ぶように呼びかけた。周囲に安堵の雰囲気が芽生えた。それから救急車のピーポー音が聞こえてきて、救急隊員が現れた時は、その場の固まっていた空気も少しずつ動き始めていた。
 酸素マスクを装着されてストレッチャーに載せられた男性が救急車へ運ばれていくのを周囲が見送ると、その場は元の通路に戻っていった。
 隆一と真衣もこの騒ぎのほとぼりを少しずつさましながら駅ビルを出て、さらに冷たくなった感じがする夜風に当たりながらシエーナへ向かった。
「イタリア料理は止めにしない?」
 数分歩き出してから、真衣がいきなり言い出した。
「どうして?」とすぐに隆一が訊いた。
「さっきの倒れていた人のことが気になっちゃって。無事助かりそうだったけど、何だかイタリア料理を食べるどころじゃない気分なの。家の近くのいつも行っている光陽楼のラーメンでいいわ」
 真衣は正直に今の心境を吐露し、隆一も父親として即座に賛成した。
 二人で並んで歩きながら隆一がスマホでシエーナにキャンセルの電話を入れ、光陽楼へ方向転換した。
 光陽楼に入り、カウンター席に座った。いつも食べている味噌ラーメンと特製餃子を注文してから、隆一が少し気になっていたことを真衣に尋ねた。
「AEDを持って来たのは早かったね。パパびっくりしちゃった」
「学校でAEDの講習を受けて以来、駅とかを歩いているとAEDがすぐ目に付くようになってね。さっきもAEDを持って来てって言われたら、すぐに設置してあるところが思い浮かんだんだ。ところでビールは頼まないの?」
「パパもさっきの興奮から実はまだ醒めてなくて、あまり飲む気にならないんだよ。今日は休肝日にするよ」と隆一は応えて、少し微笑んだ。
 それから、餃子を食べながら、いつもの味と変わらない味噌ラーメンを立ち上る湯気の中で啜り、店を出て家路についた。外気はかなり冷えてきたが、熱いラーメンが胃袋に収まったお陰で、二人ともそんなことは気にならなかった。星の数が多くなった夜空を見上げながら予定よりも早く帰宅したが、その後、紀子と拓真もさほど遅くならずに帰ってきた。
「拓真はお寿司の注文をタッチパネルで全部やって、のぞみ号みたいな車輌で運ばれてくるのをずっと楽しんでいたわ。下を流れているお皿に全然興味を示さなかったの」
 紀子は、隆一と真衣へ拓真の無邪気な振る舞いを簡単に報告した。

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