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 句読点とは何か? 考え始めると夜も眠れなくなるほどややこしいものだと思えてくる。
 文章の書き方を指南する本がいろいろ出回っているが、分かりやすく誤解が生まれないような文章を書くためには、いろいろな作法を身に付けなければならない。文法的なことはもちろんであるが、常に読み手を意識してペンの運びを進めていくのが望ましい。まっ、これはあくまでも建て前の世界の話しであって、文芸という創作の世界のみならず、法令文ですら客観性を担保することは難しい。やはり、書き手の癖(よく言えば表現スタイル)や好き嫌いがどうしても文章に出てしまう。
 サラリーマンの現役の頃、公文書的なものを取り扱う部門(いわゆる法務関係)にいたことがある。内部の規則や規程(法令の世界では規則と規程では意味合いが違う。なお規程と規定も別物である)の制定・改正などを担当してそれなりに勉強したつもりであるが、やはり公的な文章にも担当する人間の個性が表れる。言葉づかい、言葉選びの嗜好というものがあった。文書作成業務をこなしながら客観性を目指すことの限界を感じた。日本語という自然言語を使って情報科学における人工言語に近づくにはどうしても無理が生じるのである。それでも客観的でなるべくぶれない文章作成に取り組んだ。そうすると、決まり事のために世間の常識とは乖離した文章を作成せざるを得ない。
 法令文では、主語の「何々は」を書きだすと、必ず読点の「、」を入れるという決まりがある。例えば「○○は、○○において○○の場合には○○とする。」という規定(条文)があった場合、この中の読点は絶対に外せない。そして「○○は、○○とする。」という短文になった場合でも、必ず読点を入れる。でも、こんな短文でも読点は必須というのは可笑しく感じるのが普通なのではないか。一般的にはこんな表記はしない。
 さらに、いわゆる接続詞の後には読点は付けない。「AまたはB」なら不自然ではないが、「Aが何々において何々する場合、またはBが何々において何々する場合は…」という長いフレーズでも読点は不要である。言い回しが長いので思わず読点を入れたくなるが、これは控えなければならない。一般的な文章なら入れるのが当たり前な場合でも絶対に読点は入れないのである。
 また、法令文では名詞の後に句点は付けない。箇条書きで「以下の都道府県が該当する。…(改行)…1 東京都。2 大阪府。」という表記はあり得ない。だから「モーニング娘。」という人気グループ名の登場は、法令の世界で仰天させる事態だったのである。余談だが、私の上司でこの決まり事を馬鹿の一つ覚えのように口酸っぱく唱えて得意がる人間がいたが、「モーニング娘。」の表記については、その上司に対して、これはどうなのかと思わずツッコミたくなったものだった。一応上司なので、実際にはツッコンではいない。
 法令文のことから一般的な文章のことに話題を変えると、読点という切れ目は息継ぎの役目を担っている。楽譜のブレス記号(ⅴ)と同じようなところがある。黙読していても心の中で息継ぎをしないと精神的に息苦しくなってくるものである。
 句点は、文が終わりであるということの完全な切れ目であるが、だからと言って、読点の言葉の切れ目と句点の文の切れ目に絶対的な基準はない。ある文章で、ここを名詞止めにして句点を入れるか、あるい読点にするか、判断に迷うこともあるからである。例文として「バナナ、ミカン、リンゴ、これらは果物である。」「バナナ。ミカン。リンゴ。これらは果物である。」の二つの文について、いずれも表記的には誤りはない。これは法令文とは異なる世界だからである。
 ある小説家で、どんなに長いセンテンスでも徹底的に読点を排除したペンの運びをする人がいる。はっきり言って作品を読み進めていってかなり息苦しい。息が詰まりそうになる。でもそれを承知で自分の文体としている方なので、嫌なら読まなきゃいい、という考え方なのだと思う。
 この歳になって改めてしみじみ思うのだが、このブログのように日々文章を書いていると、少なくとも私の場合は、読点は頻繁に入れたくなってくるのである。それは、どうしても読者に読みやすい文の運びにしてたくさんの方にやさしく読んでもらいたいという意識が働くからだろうか。しかし何遍も推敲すると、読点の数は減ってくる。読みやすくしようと読点を多用するとかえって読みづらくなる(息継ぎが頻繁になる)ことに気づくからである。
 そして悟った。件の小説家のように思い切って読点を入れなくすれば、読みやすくはなくなるが、書く方は楽になるということ。読点のない文章は読みづらいが書きやすいのである。読者の眼を全く意識しないで文章を書き始めたら、読点なんて不要なものと感じるのかもしれない。



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