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 大学生の時に「本はどう読むか」(清水幾多郎著/講談社現代新書・1972年)という、本の読み方について論じた本を読んだ。そこに書かれていた要点の一つを簡単に説明すると、著者がじっくり考えて何度も練りに練って推敲したと思われる文章は、読む方も繰り返し丁寧に読んで理解しようと心がけ、そうではなく思ったこと、感じたことをペンの赴くままに走らせたものはページを滑らかに捲りながら読み進めていってよいというものだった。その後の読書体験で、なるほどこれはどんな本にもあて当てはまることだと実感した。
 難解な本(人文社会科学系の古典や学術書などが典型)は、一度だけ読んですんなり頭に入らない場合が多いので、書き連ねた文章の展開を踏まえて、行間にも滲み出ていることまで読み込もうとしないとうまく理解できない場合が多い。一行一行を何度も繰り返して行きつ戻りつ読み進め、そこで初めてその奥深いところが味わえたりする。反対にインタビュー、対談、講演会などを筆録したものは、結構すいすいと読めて頭に入っていく。もともと口から出たものが耳へと入っていく内容であるから、そうでなければコミュニケーションは成立しない。しかし、分かり易いからといってスピードを上げて読んしまうと、読み終わってその内容もあっさり忘れていってしまう場合もあるので、そこら辺りの注意は必要である。
 さて、短詩型の俳句や川柳は省略の文学と言われる。言外にある省かれた言葉や隠れている意味・ニュアンスを汲み取らないと味わいが深くならない。また詠み手は何度も推敲したうえで完成させた訳だから、読む方も折にふれて何度も力を入れて読み込まないと解釈が難しいものも多い。川柳は耳から入る座の文芸(句会や大会など)が基本であるが、個の文芸として句集や作品集を鑑賞する場合、一度読んだだけではうまく味わいきれない句に出合うことがしばしばある。メタファーが多用され、詠み手が独り善がりで喩えたのではないかと思いたくなる前衛句・難解句などは、詠んだ者しか解釈不能の表現と受け止めたくなる時もある。大袈裟に言えば鑑賞を拒絶するようなところが出てくる訳である。読み手として、何となく分かったような依然として分からないような中途半端のまま終わってしまうこともある。
 そうは言っても、全く解釈・鑑賞できていなかった句について、何となく気になって取り敢えずでも記憶の隅に置いておくと、ある日何かのきっかけで、あの句はこのことを詠んだのかとふと納得して理解出来たりする。この醍醐味は堪らないものである。川柳を趣味として続ける原動力にもなったりする。もちろんそういう経験が全く出来ないと、川柳はおもしろくないものとして、あっさり向き合うことをやめてしまう理由にもなるのだが。
 一読明快(明解と表記してもいい)もいいが、そういった作品ですら馬齢を重ねて改めて読み直してみると、自分なりに独自の掘り下げが出来て新たな解釈が浮かび、一粒で二度おいしいお得感の経験をすることもある。
 私は、川柳は油絵だと思っている。何度も推敲という塗り重ねをして完成させていくものだと理解している。少なくとも私の作句姿勢はそうである。閃いてすぐに五七五にまとまったとしても、そこまでに至る何かが句のキャンバスにずっと潜んでいたと考えている。読む方だって、そういうことを少しでも意識していた方が作品と向き合う上で味わいの深い鑑賞が出来るはずである。

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