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 大学生時代のアルバイトで運転助手というのをやったことがある。4トントラックの助手席に乗り道路地図帳を見ながらナビの役をやったり、荷物の積み入れや積み下ろし作業をするのである。荷物作業以外はカーラジオを聴きながら助手席に座っているだけなので、アルバイト代の割には楽な仕事であった。東京から、埼玉・神奈川・千葉、さらに北関東の方まで行った。
 ある日、茨城方面に行く仕事があった。荷物を運んで届ける目的地が途中で分からなくなり、農作業をしていたおじさんに道を尋ねた。説明してくれたことは、この先の山を一つ越えて最初の十字路を右折か左折すると目的の場所に着ける、というような内容だった。
 話してくれたとおりに行くと、山は越さずに言われた十字路に辿り着いた。そして運転手の人(正社員)が「あの親父噓つきやがったな、山なんてねえじゃねえか」と呟いた。
 その瞬間、私ははっと思った。山を越えるというのは坂道をくねくね登って下りての山道ではなく、交差点に着く前に通過した雑木林のことだったのだと。
 一応、栃木から東京に暮らし始めて何年か経過していて感覚的にはかなり東京人的なところも出て来たが、肝心の所では栃木県人の考え方・言語感覚が目覚めたりするのである。
 茨城、栃木、群馬の平地(関東平野)に住んでいる人にとって、山とは林を指すものなのである。栃木では、山と言えば那須連峰や日光連山あたりが有名だが、それは県北の地域。私が生まれ育った県央・県南地域では、起伏のある山はほとんどない。新潟出身だった運転手にはそこが分からなかったのだ。おじさんは嘘つきではなかった。
 子どもの頃、父親とキノコ採りによく出かけたが、山にキノコ採りに行くと言う場合の山は平地の林なのである。こういった「林」を「山」と呼ぶのも方言だろうが、そう呼ぶのも少なくなってきて、最近は標準語の「林」を使うようになって来ている。
 なお、そこで採るキノコは栃木県民しか食べないと言われるチチタケ(乳茸、笠を割ると乳液のような汁が出る、栃木ではチタケと呼ぶのが一般的)である。たくさん採れるとうどんのつゆに煮込んで食べたものだった。栃木県民にとっては実に旨いキノコである。

 



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