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 どういう訳だか、我が家ではお彼岸やお盆などの何かがあると今でも老母が団子を作る。市販で売られている大きさの2倍くらいのいささか大味な団子である。
 子供の頃、十五夜の月見で母親は団子を必ず作って縁側に供えた。そしてその日の日中、私は芒を取りに近くの河原に行かされた。
 昭和44年7月、アメリカの宇宙船アポロ11号が月面着陸して、月には餅を搗いているうさぎは存在しないことが科学的に判明されてから、十五夜の風習が世間で一気になくなり始めた。そんな嘘だか本当だか分からない、おもしろさだけを狙っただけのような話しを聞いたことがある。しかし、月へのロマンスが完全に断ち切れたのは確かなことではある。
 それでも我が家は月見団子を作っていたのが、私が大学生となり東京へ行ってしまうと、50歳近くなった母親もいよいよ止めてしまった。
 復活したのは我が家にも法事ができたからである。私の妻が亡くなり仏様になると、命日、お盆(送り盆の時)、春と秋のお彼岸には必ず団子を作って仏壇や墓前に供えた。年末の餅つきやお盆の時期に餡子も大量に作って冷凍保存し、それぞれの法事の時に解凍して使った。餡子を団子に付けて盛り、供え終わると下げて家族みんなで食べた。多く作ってしまうと醤油と砂糖でみたらし風に調理したりもした。
 11年前、親父が亡くなった時の葬儀の段取りで、団子を霊前に供えることに老母はかなりこだわった。葬儀屋の担当者は商売なので言われた事はすべてやるのだが、老母の異様とも言える団子へのこだわりには驚いたようなのである。その後親父の祥月命日にも毎年当然のごとく団子作りを始めた。
 餅つきは止めたが、団子作りは今も続いている。近くの米穀店でいつも米粉を買うのだが、ある時何に使うのかと訊かれて、団子にすると答えると店の人は大変驚いていた。今時そんなことをする家があるのか、と。



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団子を作る家”にコメントをどうぞ

  1. 楽遥 on 2021年2月17日 at 8:41 PM :

    泣きました。

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