Loading...Loading...

 2025年4月9日に「反ありがとう論」を書いたが、その続編である。70歳を迎える今更になって、自分の若い頃の子育てで改めて気づいたことを話す。
 それは50年近く前に遡る。同世代の友人が早くに結婚して既に子供も生まれていた。あることでその友人に会う用があって自宅まで伺った。手ぶらでも失礼かと思い、まだ小さかった息子さんに差し上げるためのオモチャを持って行った。父親と一緒に玄関先で迎えてくれたその子にオモチャを手渡したら、友人は、すかさず「どうもありがとう」を言うよう息子に促したのである。
 その子はまだ人見知りする3、4歳ぐらいだった。うまく感謝の言葉は言えなかったが、それは仕方がないことだろう。それより私は、友人が父親としてきちんと我が子を躾けようとしていることに感心した。考えてみれば、そんなことは当たり前なのだろうけど、当時の私はまだ20代半ば、結婚して子を持つことなどあまり想像していなかった。好きに遊んで暮らす日々を送っていたのである。でも、自分がもし将来家庭を持って人の親になるようなことになったら、友人のようにしっかり躾をやりたいと内心思った。所帯を持って大人びている友人が羨ましかった。
 それから何年も経って自分もいよいよ子を持つようになり、人前できちんと「どうもありがとう」「ごめんなさい」が言えるように躾けたいと考えた。でも実際の子育ては大変なものである。夢を描いていたようにはいかない。そもそも小学校に入る前の幼児のほとんどは人見知りで恥ずかしがり屋である。「こんにちは」の挨拶すらうまく言えない。五月蠅く教え込むのもどうかと考え、厳しい躾とは縁遠くなってしまった。それでも成長していくとなるようになるもので、その後は我が子も挨拶や礼儀は普通の子と同じくらいくらいにはやってくれるようになった。模範的ではないかもしれないが、まあまあ世間並みに育ったと思う。
 さて、遠方にいるが偶に会う我が孫たち二人を見ていると、やはり人前での挨拶や礼儀が上手く出来ていない。内心自慢の孫たちであるが、残念なことである。しかし親でもないので一々教え込むのもどうかと躊躇う。栃木のジイジ大好きと思い続けてもらいたい願いの方が優先されていつも大甘になってしまう。
 そして「反ありがとう論」のことをふと思い出したのである。子供にとっては、人から物を貰っても「ありがたい」とは感じていない。有り難くもない気分を有り難く思わせようと試みることにはそもそも無理がある。いきなりのプレゼントに戸惑う気持ちの方が先行するだろう。「ありがとう」だけでなく、すまないと思ってもいないことに対しても「ごめんなさい(すみません)」とは謝れない。自分の誤りであるとは認識していないことには謝れないのである。
 大人の世界はこれとは違う。心の中と人に対して発する言葉が全く矛盾していても平気である。それがマナーである場合も多々ある。挨拶やお詫びを含めて礼儀とは実に厄介なものである。それは人間関係の潤滑油になるものなのだろうが、ちぐはぐになる事態も時には起きて、潤滑ではなく軋轢さえ生じかねない。面倒くさいものでもある。
 言わずもがなのことであるが、子供は素直で正直なのである。そういう無垢の存在に対して、礼儀などを教え込むには大人への成長の時間が必要であろう。礼儀などというものは大人の世界の手垢に塗れた便宜的な手段である。そんなものを押し付けられたって、小さな子供にはまだ扱い切れない不要な道具である。
 子育ての一環として躾に厳しくするのは親のエゴだろう。自慢の息子や娘になってもらいたいと願う親の自分勝手がそうさせている。子供にとっては大きなお世話なのである。大人になれば世の中がどのようにして動いているのか少しずつ認識し、人との付き合い方も理解してくる。そして感謝やお詫びの意味やその意思表明も自然と体得してくる。慌てることはない。
 物怖じもせず大人びた態度も見せて周りの大人たちに立派だと褒められる子供はたくさんいる。そういった子たちにケチを付けるつもりは毛頭ないが、親のエゴによって無理に躾けていた場合、その無理が高じて後々いろいろと問題になるケースもよく聞く話しである。しっかりしているお子さんですねと、早い段階から評価されることにはリスクも潜んでいる。我が子が褒められ、親として嬉しく思って満足する気持ちはよく分かるが、あまりそれに拘り過ぎるのもどうか。相田みつをに「育てたように子は育つ」という言葉があるが、無理して育てると無理して育ったように見えてならない。そこら辺りがどうも気になるのである。

ポストする LINEで送る ブックマーク
❤️ ひざポン
ありがとう!

「なるほど!」「いいね!」
心が動いたらポチっ(無記名)

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Post Navigation

Copyright All rights reserved. SHINYOKAN PUBLISHING illustration by Nakaoka.K