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 市町村のほとんどには防災行政無線が設置されているだろう。自然災害が発生した場合には、速やかな避難を呼びかけるために屋外拡声器を使って一斉放送を行ったり、事前に登録した住民に対して緊急通報の防災メールを配信したりと、その伝達システムが整備されているはずである。
 私が住んでいる町では緊急事態についてのお知らせ以外に、毎夕6時に町民の歌も拡声器で流している。さらにこの一斉放送は何かの選挙があるたびに、必ず投票へ行ってもらうための呼びかけ用のアナウンスとしても使われる。そしてアナウンスの際には、期日前投票という制度もあるのでそれらを活用してなるべく棄権しないよう、念押しのような呼びかけも行っている。おそらく他の市町村でも同じであろう。
 私は、この期日前投票を「きじつぜんとうひょう」と呼んでいることがいつも気になっていた(はっきり申せば耳障りだった)。日々の散歩で爽やかにコーラスが響く町民の歌を聴くことにはすっかり慣れているが、選挙案内の放送で「期日前」を毎度「きじつぜん」と読み上げていることについては、個人的にどうしても納得できなかった。耳が慣れることはなかった。この読み方をネットで調べると以下のように説明されていた。

 現在の期日前投票制度は平成15年度の公職選挙法改正によりできた制度で、総務省は「きじつぜんとうひょう」という名称で法を成立させた。しかしメディアが「きじつまえとうひょう」という呼び方で放送したため、一般的にはこの呼び方が広く浸透してきている。
 地方の選挙管理委員会では、法律用語(正式な名称)として「きじつぜんとうひょう」という呼び方を採用している。現在の総務省は、どちらの呼び方でもかまわないという見解である。

 うーん、実にややこしいダブルスタンダードである。こんな面倒くさいことを考え出した輩は一体誰だ!と言いたくもなる。漢字表記の音読み・訓読み、熟語の重箱読み・湯桶読みなど、中国から渡来した漢字と日本固有の言葉(和語)の結びつきには一筋縄でいかないものが多い。しかし、滅多に呼ばれない「きじつぜん」を拡声器によって大々的に(臆面もなく?)アナウンスするのもいかがなものか? 何かの災害が起きた緊急事態の際、こんなややこしい言葉が使われたらどうするのだろう。重箱読みや湯桶読みのハイブリッドを避けようと、わざわざそのためにすべて音読みに統一して「じしんぜん(地震前)」とか「かさいぜん(火災前)」などと言うのだろうか。
 国政選挙の期間中の立候補者に対して、例えば「○○山○○夫 自民前」「△△川△△子 自民元」などとテレビ・ラジオで紹介する言い方を連想してしまう(もっともメディアは紛らわしさを避けるために「自民元」の場合は「元」を「げん」ではなく「もと」と訓読みして「ぜん(前)」との明確な差別化を図っているが)。お役所言葉の独り善がり的な使われ方には眉を顰めるものが実に多い。そして国が決めた言い方に地方が素直に従っている。総務省がどちらの呼び方でもいいと言っても(今更感たっぷりの何という変節!)、地方はどうしても国の顔色を愚直に窺うというものである。
 話題が変わるが、公共施設利用の申込み手続きが市町村においてシステム化され始めている。趣味の集まりで適当な会場や部屋を借りる際に、PCやスマホからシステムの画面にログインしてスムーズに申込みが出来るようになった。そして、その使用料も現金だけでなくクレジットカードやコンビニ決済などもOKの市町村が出てきている。わざわざ施設まで出向いて現金払いすることが少なくなってきた。実に便利な世の中になったものである。しかし、このシステムがいかにもお役所らしい使い勝手の悪さを抱えているところもある。
 隣接する市のシステムが数年前に一新されて、市が管理運営する公共施設の利用予約やその支払いをオンライン処理することが可能となった。句会関係で頻々に使わせてもらっているので、その便利さを有り難く享受している。
 その代わりに操作がかなり面倒くさくなっている。PCやスマホの画面とにらめっこして手続きを進めていくと、いかにもお役所らしい用語にぶち当たる。その典型として、予約申込みを済ませて施設使用料の支払い手続き画面に向かうと、「収納」という妙な言葉が大きく出てくる。
 収納と言えば、一般的には収納ボックスや収納ケース、収納家具などを連想するものだが、お役所言葉では「国または地方公共団体の会計で,租税その他の現金を受領すること」をさすらしい。そんなことを承知している者は、市民の間にどれほどいるのか。使用料の「支払い」または「納入」でいいではないか。何か「きじつぜん投票」を連想してしまうのである。施設の申込みも利用も手軽に出来て楽になったが、言葉づかいだけは相変わらず不細工なままのようである。
 ちなみに私が働いていた大学は、私立とはいえ税金で成り立っているほぼ国立みたいなところなので、お役所言葉とお役所的手続きが満載の職場だった。金銭に係る単なる支出や収入の処理のことなのに「支出負担行為」とか「収入調定」とか、何か持って回った見出しの伝票を日々作成していた。その言い回しの閉鎖性に異を唱える者は開学以来ずっといなかったが、時の流れの中でいよいよ誰かがおかしいと判断して用語の改善を図った。そして、「支出伝票」や「入金伝票」というシンプルで一読明快な名称にようやく変更された次第である。
 さきほど取り上げた市のシステムについてもう少し話すと、団体としての会員登録をする際にもシステム上の手続きがかなり複雑だった。画面の指示に従って私も何とか登録できたのだが、登録者のマイナンバーカードまで事前に用意しなければならない。まず専用のアプリをスマホにダウンロードする。そこからの案内に従ってカードをスマホにかざし、申込者の身元をしっかり確認するのである。スマホやカードの扱いに慣れていない後期高齢者の場合、この操作は結構難しいものだろう。噂によると、高齢者ばかりの趣味のサークルでは、この登録手続きをやれる者がおらず解散に追い込まれた団体いくつかあったとか。システムの運用開始前に、各団体に対して操作のための説明会を開いたが、それ以前のレベルで無理だったようなのである。何だか哀れでもある。
 お役所の常識は世間では非常識、世間の常識はお役所では非常識。そんなことが言葉づかいだけでなくいろいろな場面でまだしぶとく残されている。徹底した市民目線に立つということはなかなか難しい。
 Z世代やアルファ世代が後期高齢者になる世の中になったら、情報化社会のギャップや格差が解消され、その頃には常識と非常識の壁も取っ払われているだろうか。いやいや、数十年先のその頃には、また別のギャップや格差、新常識と旧常識の軋轢が世代間で存在しているだろう。いつになっても終わらないゲームみたいなものでろあろうか。
 「きじつぜん」のことからいつの間にか脱線してぼやき漫才みたくなってきたので、そろそろここで筆を擱くことにする。

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