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 もう20年近く前の話しである。毎月1回、県内や近県で開催するマラソン大会に仲間と参加していたが、ある町の大会でこの言葉に偶然出合ったのである。
 いつものように会場へ着いてすぐに着替えをし、スタートまでの時間を体育施設の中でウォーミングアップしながら過ごしていた。事務室前の壁を何気なく見上げると、誰かが揮毫して額に収められたこの言葉が目についた。
 すぐにこれは素晴らしい言葉だと感心してしまった。何かにメモをとるような余裕もなかったので、とにかく暗記した。それから自宅へ帰りすぐにネットで調べた。永六輔さんがベストセラー「大往生」(岩波新書)の中で紹介して広まった言葉で、永さんが愛知県の犬山の寺の掲示板を見て書きとめた、とのこと。もともとは浄土真宗の信者の言葉だったらしい。
 私はその頃40代半ばだった。実を言うと、私は自分の子供をあまり叱ったことがない。少なくとも中学生になってからは、多分一度も叱ったことがない。逆に叱られることは今でもちょいちょいあるが(笑)。それには二つの理由がある。
 一つは、子供は子供なりに考えて親に反抗したり、何か言いたいことの裏返しで悪いことをしたりするのがほとんどである。いきなり叱る前に、少し我慢して子供の気持ちに耳を傾け寄り添ってみると、そこに至るまでに何らかの訳があったことが分かってくる。そう考えると私は親としてもう叱れないのである。二つ目は、私自身が若い時分かなり親に反抗し、悪態をついてきたからである。そんなことをしていた人間が自分の若い頃のとんでもない言動を棚に上げて我が子を叱ったり説教したりするのは、おこがましいこと甚だしいとすら考えているところがあった。
 また年寄りの気まぐれな言動、せっかち、心配性、物忘れ、自分本位などを笑おうとしたこともあまりない。そういう人間に私もいずれはなるだろうことを、一緒に暮らす当時既に後期高齢者になっていた老父母の背中を日々眺めながら予想していたからである。1年前には出来ていたことが今年は出来なくなる。そういったことを積み重ねながら人間は老いていく。今の私もそういう時期に差しかかってきて、もう元に戻ることはない。孫の成長を素直に眺めるだけが関の山である。
 そんな訳で、この言葉は当時の自分の考え方にぴったり一致し、身に染みるものだったのである。これからも忘れることはない。

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