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 東京へ出てくるまでセロリを食べたことがなかった。そんな洒落た野菜を食べたいと思うほどの興味もなかった。
 初めて食べたのはラーメン屋だった。ラーメン屋で偶にご飯ものを食べる時は炒飯か中華丼などを注文していた。
 大学5年の毎日が暇な生活を送っていた時、下宿近くのラーメン屋でその店では初めての中華丼を頼んだ。出て来た丼にセロリが入っていた。斜に切った形が白菜に似ていた。最初、少し青っぽい白菜だなと思いながら口に入れたら、癖のある苦味のようなものが舌の上に広がった。思わず、ゲッ!となるところだが何とか食べようと試みる。勿体なくて食べ残すことができない性分なのである。我慢に我慢を重ねて食べ終えた。中華丼は一般的には、豚肉、筍、白菜、木耳、人参などを材料にとろみをつけた味付けにしてあるが、件のラーメン屋の中華丼は、セロリだけを除けば他はみんないい味付けで旨かったのである。「思わず、ゲッ!」となりそうな表情をお店の人に見られなかったか気にしながら店を出た。折角の外食一回分を損した感じがした。
 ここで普通なら、もう二度とこの店の中華丼は食うまいと思うのだろうが、私の性格には少しややこしいところ、しつこいところがある。何とか自分の失敗体験を正当化して、実は失敗ではなかったと思い込みたい、正当化したいところがあり、その後その性格がむらむらと出て来たのである。
 セロリ事件のほとぼりがようやく冷めた頃、またまたその店に行って中華丼を注文してしまった。二度目の味は全く異なっていた。一回目の突然の出遭いとは全然違う。覚悟を決めて口に入れるとセロリの歯ごたえがすんなり馴染み、あの強烈な個性が個性とは感じられなくなったのである。不思議なものである。予期して食べるとこんなに旨いのか。
 それからしばらしくして、下宿近くの中華料理のレストランでアルバイトすることになった。ラーメン屋よりは少し格が上で、ラーメンやギョーザだけでなくエビチリやチンジャオロース、ホイコーローなどがメニューに載っている。値段も相応のものとなっていた。お酒には紹興酒などもあった。ウェイターとして働きながら、ある時、裏メニューでセロリー麺があることが分かった。やはりセロリの通はいるんだとしみじみ思った。
 いまでも私はセロリが好きである。個性的、癖のある味わいのものは馴れてしまえば、考え方、大袈裟に言えば価値観が180度方向転換されて一気に大好物となる。その典型が私の場合セロリだった訳である。
 好物料理というのは、結局食べ馴染んだもの、いわゆるおふくろの味に行き着くと言われている。カレーライス、肉じゃが、きんぴらごぼう、どれをとっても親(母親)がいつも作ってくれていた料理が一番旨いと感じることは実験的に証明されている。セロリも子供の頃から我が家で食べていたら、それを使った料理は大好物になっていたかもしれない。もっとも栃木の田舎で、当時八百屋の店先にセロリは売っていなかったのではないか。かなり不確かな記憶だけど。



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