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 NHKのEテレで「やまと尼寺 精進日記」という料理のドキュメンタリー番組がかつて放映されていた。今も時々再放送してくれているが、Wikipediaで調べると2016年から月1回のレギュラー放送が始まり、今年の春には一応終了となっているようである。
 新聞のテレビ番組欄に載っていた、妙に変わったタイトルに惹かれて最初に視聴したのは10年近く前のことだった。Wikipediaでは「奈良県桜井市の山中にある尼寺・音羽山観音寺の日々の生活と訪問者との交流、そこで作られる旬のものを使った精進料理を紹介する番組」と説明されているが、出演者は住職に副住職、お手伝いさんの3名(いずれも女性)である。
 初めて観た時の記憶は、これは60歳前後の中高年男性には「無理だわ、付いていけない」そんなふうな印象を持ってしまい、結局一度視聴しただけのご馳走さまという感じで終わった。山寺(それも尼寺)の生活にそもそも興味が持てなかった。テレビではある程度の演出があるにせよ、女性3人が毎回和気藹々と料理することにわざとらしさを感じたのである。料理の仕方で意見の食い違いなど起きないのか。日々の暮らしに厭きてこないのか。そんな余計なことにまで思いが及んでしまった。
 そもそも私もまだ若かったので、いくら旬の新鮮なものとは言え、野菜や根菜中心の精進料理ではもの足りなく感じてしまう。やはり肉や魚がメインに出てくる料理でないと食指が動かないのである。振り返ってみればこってり系のものを懲りることなくよく食べていた。
 それがその後数年して70歳近くになり、何かのきっかけで(あまりにも暇で時間を持て余していたのか)再びこの番組の画面を眺めてみる機会があった。長閑な山里の景色や地元の人たちとの和やかな交流を含めて、無性に懐かしく感じられる。私自身が小学校に入るまで、田んぼに囲まれた田舎で暮らしていた所為か、その思い出も呼び戻されたのである。
 そうなってくると番組への愛着も俄かに湧いてきて、毎月番組があれば必ず録画予約して観るようになる。何回観ても飽きない。羨ましい生活をしているなあとしみじみ思うようになる。憧れも湧いてくる。この心境の変化は一体何なのだろうと自己分析したくなった。
 はっきりと申し上げれば、私が齢を重ねたことによるものだろう。アラサーとかアラフォーとかの言葉がよく使われるが、60歳や70歳前後についてもアラ還(暦)やアラ古希なる言い方がある。実際にこの二つの年齢付近(これは私の造語)を経験してみると、身体面だけでなく精神面、さらに年齢に対する意識(要するに年を取ったこと)の違いを実感する。少なくとも私はアラ古希になって、偶に肉や魚も食べるが、植物性食材を使った精進料理みたいなあっさり系も好きになっていた。野菜などをじっくり味わって、その美味しさを感じ取ることができるようになったのである。60代半ばから血圧が高くなり、血糖値も油断できない状況にある。胃腸も確実に老いている。そんなこんなで食生活における健康を意識し始めたのが大きな理由なのだろう。
 60歳の定年を迎えて一切の仕事をせず、勤労に対する意欲も全くなくなった(もともとあまりなかったけれど(笑))。資本主義社会の歯車になることはもう真っ平ご免だと完璧に思っている。効率重視からスローライフへの切り替え、意識変化は大方の人間にいずれ訪れることだろう。訪れない人はちょっと可哀そうな気もする(まっ、人それぞれなので大きなお世話かもしれないが)。歯車の意識から解放されるとストレスも激減し、食事もこってり系からあっさり系へと次第にパラダイムシフトされる。
 さらに言えば、この番組では地域住民との交流も楽しそうに紹介されている。近在からの来訪者たちとの交流があったり、子供らのための行事が催されたりと、そういう経験は私自身も地元で体験するようになり素直に共感する。
 以前、テレビ朝日の人気番組「人生の楽園」について書いたことがあった(2021年10月3日付けの「人生の楽園よ、さようなら」)。私は40代半ばから60歳の定年になるまで、ずっとこの番組を毎週観ていたが、アラ還の定年間際になって観始めるようになったという友人がいる。第二の人生への心の準備に役立ち、新たな挑戦への起爆剤にしようとしているのか。身体的な変化が表れ、それが精神面にも確実に影響を及ぼすアラ古希(要するに老化を格段に実感するだけのことではあるが)になると、「やまと尼寺 精進日記」のライフスタイルには惹かれるものがあるのではないか。私以外にもそういう人はいるような気がする。
 現在は再放送が不定期にあり、なるべく観るようにしている。いずれ関西へ引っ越す予定なので、その際はロケ地だった奈良県桜井市方面へも旅行したいと思う。
 最後に一言、クマの出没が昨年あたりからニュースで頻繁に報道されているが、音羽山観音寺の方は大丈夫なのだろうか。クマ被害が心配である。現在は住職さんが一人お寺を守っているようであるが、山菜採りなどでクマに遭遇して大事に至らないようにして山寺の精進暮らしを続けていってもらいたいと、心から願っている。

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