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 今から40年近く前、大学の文学部に5年間在籍した。5年目は卒論だけを残していただけだったので学校へあまり通う必要はなかった。いわゆる自主留年である。家庭教師のおいしいアルバイトをやっていたので、親からの仕送りがなくてもそこそこに生活できていた。
 とにかく時間だけはたっぷりあった。1日に6時間は読書に充てようと考えていた。哲学・心理学・言語学などの人文科学系、経済学・社会学・法学などの社会科学系、それに難しい本ばかり読んでいては頭が疲れるので推理小説などの読みやすい文芸書・文庫本、それぞれに2時間を割り振った。これは高3の時の受験勉強で、古典、日本史、英語の入試科目にそれぞれ2時間、計6時間を充てたのに倣ったのである。
 お昼過ぎに起きてまずタバコを一服して、昼食をとる。どこの食堂(蕎麦屋やラーメン屋)へ行っても混雑のピークは過ぎている。のんびり食べられる。パチンコやテレビなどを観て適当に時間を潰すと夜の8時頃になる。また食事。これもピークは過ぎているのでゆっくり食べられる。それから下宿に籠って読書。
 大学5年目でようやく実現したことが一つある。文学部キャンパスの周りに学生向け食堂がいくもあったが、シューマイ定食を出す店があった。一度食べたいと思ってたが、お昼時は混んでいていつも外で待たされるので挑戦していなかった。卒業するまでに行けないかなと思っていたら、5年目は授業がないので、何かの用で大学に行ったついでにいつでもその店に寄れることになった。早速行ってみた。別に特段変わった味のシューマイではなかった。
 大学5年目でようやく分かったことが一つある。それがタイトルの言葉である。この「持山々禁止」を縦書きにして、「山」と「々」をくっけて一つの漢字と理解して欲しい。大学入学の時から文学部キャンパスの校舎通路の隅に積み重ねられていた長机にこの言葉の貼り紙が貼られていたのである。4年間、何と読むのか理解できなかった。
 それが5年目にしてようやく分かった。4年で卒業していたら理解できずスルーしていたはずである。「持出禁止」と書いてあったのだ。「々」は、「佐々木」などと同じ使われ方、つまり「山」を表わし、それがその前の「山」にくっついていると「出」となる。
 まだ学生運動の残り火が燻っていて、1年の時の学年末試験はストライキで実施されずすべての科目がレポート提出だった。ヘルメットを被った学生が机や椅子でバリケードを築いていたのである。学部事務所としては、勝手に長机が持ち出され、またそんなことをされたら迷惑だという訳だったのか。
 「労働」の「働」を簡略化して「亻」(にんべん)と「力」の間にある「重」を省いて表記することがある。左翼運動のタテカンなどによく使われる。「経済学」の「経」の「糸」(いとへん)を省く表記も結構目にしてた。「慶応義塾大学」の「慶」と「応」はそれぞれ「广」(まだれ)を使っているが、その中をそれぞれ「k」と「o」のアルファベットを代用して書き入れる場合がある。
 しかし、「出」を「山」と「々」をくっけた文字で表しても簡略した漢字にはなるまい。あまり合理的ではない。誰が考えたのだろう。どれほど普及しているのだろうと疑問に思ったが、とりあえず長年の謎は解けた。その後40年、こんな書き方の「出」は目にしたことはない。誰か目にした人はいますか?

 



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