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 以前お話しした「読む会」の仲間の一人が3月に亡くなった。クモ膜下出血で急逝したのである。享年68歳。
 内々に葬儀を済ませていたようで、逝去して1週間ほど経ってから訃報が私の方にも届いた。お線香を上げに自宅へ行ったら、奥さんに生前の話しをいろいろと伺って大変驚いた。
 別居生活が長く夫婦関係は破綻状態(奥さんの方が家を出ていた)に近かった。子供さん(既婚の娘さんが一人)ともうまくいっていなかったようだった。自分の生い立ちが複雑だったことで夫婦間や子育てに何らかの影を落としていたようなのである。それらのことは、私と二人で酒を飲む機会などに当人からある程度は聞かされていたので薄々は気づいていたが、奥さんの口から出てくる話しを聞いてみると、まったく別の様相を呈していた。どちらの話しが正しいのかと思う程の食い違いもあった。家庭内、家族間には何度も修羅場が展開され、妻からも子からも見限られていたのかもしれない。事実というものは、話し手の数だけ物語があるということを改めて思い知らされた次第である。
 彼は詩をメインに活動し、並行して小説や随筆も書いていた。これらはコンクールで何度も入選するレベルだった。
 詩のことはよく分からないが、小説については書かれたものを何編も読んでいつもスマートにまとめ上げられているのが羨ましかった。内心私にとってお手本になると思っていた。
 急逝だったが、これからの自分の行く末を予想しながら死を覚悟していたのかもしれない。突然死した人間には案外そういうところがあると思う。亡くなる3ヶ月ほど前にあるコンクールで一席の入選を果たした詩の作品を改めて読み返してみると、そういう心境を吐露しているような諦観が窺えた。
 何かきっかけがあれば、彼に対していつか言おうとしていたことがあった。「自分の半生を映した一大長編小説を書いらどうか」と。それが言えずじまいになってしまった、その作品を読むことも叶わなかった。本当に残念である。

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