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 前回の続きのような話しになるが、以前少々理屈っぽい人に出会った。その人が「許可なく立入りを禁じる」の看板を見て、これはおかしいと言い出した。
 「許可なく」の「なく」は形容詞「ない」の連用形である。ということは、それに続く言い回しのうち用言の品詞に係ることとなる。「立入り」はもともと「立ち入る」の動詞であるが、連用形が体言の転成名詞になっているので係らない。そうすると残りは「禁じる」の動詞だけである。つまり「許可なく禁じる」となる。これはおかしい。許可なしに禁じるなんて、頭が三角になりそうな理解不能の世界に陥ってしまう。
 「許可なく立ち入ることを禁じる」と表記すれば、「許可なく」は素直に動詞「立ち入る」に係ることとなる。これなら誤解される、言いがかりをつけられる隙は全くない。
 しかし許可のない立入りは禁じる」と理解するのが、当たり前の言わずもがなの話しである。クレームをつける理屈は一応正しいが、常識を備えた者なら誰も誤解するはずのない慣用的な言い回しは決して不自然なものではない。文法的な講釈を真顔でいくら並べられても、誰も耳を貸さないことだろう。また看板などを作成する場合には文字数を制限しなければならないという事情もあるはずだ。
 最近散歩の途中で目にした看板に「許可なく駐車を禁ず」というのがあった。件の看板と文法上の構造は全く同じである。これを見ても、こういった表現は常套句的なものとしてしっかり定着していることが分かる。
 話しは少し逸れるが、言葉の力を信じるならば、学問的な理屈などよりまず自分の思いに対して正直になることの方が大切なのではないか。幼児が文法的なことなどは全く知らずに話し言葉を素直に習得していく過程などがいい例になる。また大人の会話などでも、テレビなどで真面目に話している人の「てにをは」がしばしば間違えているのを耳にするが、それで何か理解されない、どこか誤解されてしまうなどというようなことはほとんどない。逆に政治家が雄弁に演説したり、評論家がもっともらしく丁寧に話している時に、内容的に怪しいもの(屁理屈や詭弁)を孕んでいる場合が結構ある。言語表現においては、素直さや正直さが一番人に伝わる。
 川柳を詠んでいて腐心するのは、用いる言葉の意味について、辞書に載っているような範囲から敢えてはみ出して自分なりのニュアンスをいかに付与するか、「てにをは」の措辞について、自分の言語感覚で上手く使いこなせないかということである。苦吟しながらもこういうプロセスの中で自分なりに何か閃いた時が一番楽しい。
 テレビのCMや新聞・ネット広告などにおいてキャッチーなコピーに出合うと、作句のうえで参考になることがたびたびある。岸本水府のことを持ち出すまでもなく、常に新しい表現を探し求めて真っ向勝負しているコピーライターのセンスには学ぶべきものが多い。
 かつて「父の貨車」、「風の私語」、「試歩の杖」などの措辞が流行った時期があった。もう黴が生えて今更これらを川柳に使う人はいないだろうが、誰かが考え出して登場した当初は、インパクトのあるものとして広く受け止められたことだろう。だから真似された訳である。自分が満足する川柳を詠みたいと思うなら、こういう人に真似されるようなフレーズを考え出したいものである。

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