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 千賀かほるが歌った「真夜中のギター」は忘れられない名曲である。昭和44年、私が中学1年生の頃に大ヒットした。
 「街のどこかに 淋しがり屋がひとり…」という歌詞で歌が始まり、「愛を失くして なにかを求めて」と続き、「失くして」の「して」のところでベースギターがブーンと低音を響かせる。当時の私はそこを気に入っていた。
 ところで中学生だった私の国語の理解レベルではタイトルの「真夜中のギター」という言い回しの意味(詩的味わい)が理解できなかった。「真夜中に弾いているギター」を「真夜中のギター」と縮めてしまうのは正しい表現なのか疑問だったのである。丁度国語の授業で口語文法を習っていて、いわゆる「てにをは」、つまり助詞のことなどを勉強していた。助詞の種類には、格助詞・接続助詞・副助詞・終助詞とあって、「真夜中のギター」の「の」は格助詞、厳密に言えば「ギター」を連体修飾する「の」なのである。
 これを英語で言えば、直訳してしまうと「Guitar of midnight」となるが、さすがにこれではアメリカ人には通じないだろう。インターネットの自動翻訳を使うと「Guitar at midnight」という言い回しが出て来た。「Guitar in midnight」でもいいのかもしれない。中学校では英語も習い始め、前置詞の「of」「at」「on」「in」なども覚える。
 日本語の助詞「の」に相当する英語は前置詞の「of」と大方の生徒は理解するだろうが、真夜中のギターの英語表現などを踏まえると「of」より「の」の方が、意味をカバーする領域が広いことが分かり始めた。日本語の「の」は即英語の「of」へ機械的に変換してはいけない。他の前置詞の方が適当かどうか考える必要がある。逆に、英語の「at」「on」「in」などの前置詞は、「of」ではないのに「の」に訳しても適切な場合があるというになる。
 こういった知識は高校や大学の英語の授業でも踏まえておくと、英訳や和訳の際に便利なものと分かる。
 さて、これからが川柳の話しになる。下野川柳会の柳誌「川柳しもつけ」で毎月「実践教室」というものを設けて添削指導を続けているが、「てにをは」の使い方については何度も繰り返し教えていることがある。「て(で)」と「も」はなるべく使うなということである。
 最近の話しであるが、ある受講生が、コロナ騒ぎを踏まえて「マスクして街は美男と美女ばかり」と詠んできた。上五の「マスクして」は「マスクした」にすぐ添削する。受講生も繰り返し指導しているのでその理由が分かり始める。「マスクして」では物事の経緯は分かり易いかもしれないが、理屈っぽくなる。「マスクした街」にするとその理屈っぽさがなくなり、街が擬人化されたとも受け取れる。ぐーんと詩的な表現になるのである。
 また「も」について言えば、拙句に「水をごくりと敗者の顔が美しい」というのがあるが、当初私は「敗者の顔も美しい」と詠んだ。敗者を強調しようとするあまり「も」を使った訳だが、逆に弱まってしまった。「が」を使って勝者のことは完全に捨象し、敗者だけを素直に浮き彫りにした方がかえって強調されることに気がついた。「も」はなるべく使わないようにする。推敲段階でそれはすぐ見つけられる。
 そして更に「て」や「も」をなるべく使わない代わりに、「の」をなるべく使うように指導している。句を作りながら「てにをは」の措辞について推敲する場合、こういった時の助詞の使い方は「の」にできないかと考えてみることが大事である。もちろん「真夜中のギター」についても、そういうタイトルにしたから詩情が出た訳で「真夜中に爪弾くギター」などとしたら、説明的で趣きはなくなってしまう。こういったことは川柳の措辞でもよくあることなのである。
 「真夜中のギター」がヒットしていた頃に、ピンキーとキラーズの「恋の季節」も大ヒットしていた。その歌詞の中に「夜明けのコーヒー ふたりで飲もうと」というくだりがある。この「夜明けのコーヒー」も中学生ではなかなか理解できない色っぽい話しである。作詞した岩谷時子さんは、確か越路吹雪さんから聞いた逸話をもとにして、この歌の歌詞に取り入れたという話しを聞いたことがある。まっ、その話しはまた何かの機会で話すこととしたい。
 念押しするようで諄くなるが、「恋の季節」も「の」を使ったからタイトルと歌詞に味わいが出た訳であって「恋する季節」ではこれまた説明的で興趣は削がれてしまう。



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♪真夜中のギター”にコメントをどうぞ

  1. 坂本加代 on 2020年8月25日 at 1:25 PM :

     21日のブロブの漱石の「こころ」ですが、私も若い頃読んで感動したことを覚えています。
     すっかり忘れているのでYouTubeの朗読を聴きました。
     妻の気持ちを書いてないのは漱石が男性だからではと思いますし、男性心理を細かに書いているので女性も心理学の勉強になります(*’▽’) 今でもはらはらドキドキと展開を楽しめました。
     数年前ロンドンの漱石住居跡を見学しましたが、ああこの狭いアパートで悶々としていたのだなと感慨深かったです。
     

    • 三上 博史 三上 博史 on 2020年8月26日 at 8:56 PM :

      コメントありがとうございます。
      坂本さんのような読み方が多数派なのかもしれませんね。私は男の読者なのに少数派なのかも…。

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