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 数年前、ある理髪店に行った時、そこの女性理容師が私とほぼ同世代の方で、散髪しながらいろいろと話しが弾んでしまった。その話題の一つに、NHKのテレビ番組「のど自慢」があった。
 その理容師が言うには、子供の頃、日曜のお昼の時間に素人の歌を聴くテレビ番組のどこがおもしろいのか全く分からなかった。家族で昼食をとりながらこれを観るのは、一家に1台しかテレビがなく、チャンネルの権限は親が持っていたから仕方がなかった。でも自分も成長して親と同じような年齢になると、いつの間にか日曜の昼はのど自慢を観ていることに気づく。あんなにつまらないと若い時分は思っていたのに…、という話しである。
 私は素直に同感した。私もNHKのど自慢に対しては、同様の思いを持っていたのである。つまり毎週日曜のお昼のテレビは、子供心にあんな番組のどこがおもしろいのかと思っていたのど自慢を中年になると毎週観ている訳なのである。
 さて、理容師との話しが弾んできて私の方が提供した話題は、やはりNHKの歌番組、年末恒例の紅白歌合戦のことである。子供の頃、これを観ていよいよ大晦日の最後の夜、明日からお正月なのだと思ったものである。
 ところが、我が家ではここでいつもチャンネル争いが起きていた。そして主導権は、親父でなく息子である私と私の姉の方にあった。それは2対1の多数決の結果だった。裏番組では「なつかしの歌声・年忘れ大行進」(当時は東京12チャンネル、現在のテレビ東京)をやっていて、何故か亡くなった親父がこれを大変好きだったのである。しかしこの番組は6時頃(多分そうだったと思う)から始まっていて、「輝く!日本レコード大賞」(TBS)と被っていた。日本レコード大賞のあとは紅白歌合戦へと引き継がれるようにしてテレビを観るのが一般的だった。もう親父の大好きな「なつかしの歌声」へチャンネルが切り替わることはない。いつも親父は早々に寝てしまっていた。
 日本レコード大賞も紅白歌合戦も、歌謡曲の流行や話題について行ける間はおもしろかったが、40代後半あたりからははっきり言って追いつくことが難しくなってくる。世間でどんな歌が流行っているのか、時代の波に乗ることができなくなっている。
 そうすると「なつかしの歌声」(現在は「年忘れにっぽんの歌」)で歌われている、自分の青春時代にヒットした歌の方が断然聴きたくなるというものである。まさに親父の心境がよく分かる年齢になって来た訳だ。
 テレビが一家に1台しかなかった、ビデオデッキもなかった時代、毎年の大晦日の夜、父には申し訳ないことをしていたことを改めて痛感している。中高年となり高齢者にさしかかった私は「なつかしの歌声」を観て、そのあとは紅白を観ずにそそくさと自分の部屋にいつも戻っている。
 この話しに、もちろん件の理容師は大いに同感してくれた。

 



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