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 漢字・漢語(熟語)は中国で生まれて日本に伝来した。日本にはもともと大和言葉(和語)があった。これを合体して、漢字の訓読みが生まれた。漢字をどう訓読みで当てようか、これは日本人自身の問題、日本語の世界の約束事である。
 漢字の送り仮名の議論がしばしばなされる。国語辞典、用語・用字辞典などで確認してどちらが正しいかを調べたりする。しかし、これも先ほど言ったように約束事の世界だから、正しいものが一つしかないということはあり得ない。すべてが統一されている訳ではない。俳句の世界では、なるべく送り仮名は付けないという暗黙のルールがある。「秋の暮れ」と表記したら「秋の暮」と訂正される。これはきちんとした約束事である。
 訓読みの漢字表記についても、「探す」と「捜す」のどちらを用いるべきか、うるさく言う人がいる。前者は、実在するかどうかはっきりしないものをさがす、後者は、確実に実在するものを見失ってさがす、などと説明されたりするが、なかなか使い分けるのは難しい。実在などと言ってもさがす当人だけの思い込みや、逆に世間の常識の方が間違っていた、などということも起こり得る。一筋縄ではいかないところもある。現代の国語辞典ではそこら辺りを踏まえてか、かなり緩い解釈の立場に立って表記の区別も寛容になっている。
 さらにややこしいことを言えば、逆のパターンで「避ける」と表記して「よける」と読むか「さける」と読むかの判別がつかないケースである。文脈から判断する他はないが、判断できない場合も多々ある。ルビを振ればいいが、耳から入ることを原則とする川柳ではそれを許さない人が多い。
 学校の国語というのは、どちらでも正しい、どっちでも構わないという考え方をあまり好まない。なるべく排除する傾向がある。送り仮名や漢字表記は正解がないと居心地がよくない。例外を認め始めると、先生のテストの採点も面倒くさくなってしまうからである。
 新明解国語辞典(三省堂)を捲っていたら、「すてき」の漢字の当て方が「素敵」「素適」「素的」の三通りあったので驚いた。私は2番目、3番目の表記を知らなかったのである。もともと中国にはない言葉に漢字を当てたのだから、正解というものは存在しない。当て字はいかようにも作り出せるのかもしれない。
 言葉の歴史は言葉の誤用の歴史でもあるので、間違った用法がいつの間にか市民権を得て辞書に載るということもある。また新しい言葉の登場というのは、流行が定着し認知されたというだけのものではない。その後も変遷していくかもしれない動的なものなのである。
 言葉の未来を予測することは難しい。代用漢字、例えば「輿論」の「輿」が常用漢字に無いので「世論」と表記することもある。それが転じて「せろん」などと読まれてしまう訳である。こういった展開はなかなか予測することができなかったことだろう。
 漢字表記そのものについてもややこしいことがある。文化庁が管轄するものには教育漢字や常用漢字の他に表外漢字(印刷標準字体・簡易慣用字体)などというものがあり、「鴎」と「鷗」、「噛む」と「嚙む」、「嘘」と「噓」など、後者は正しい表記(正字)なのだが、パソコン上では環境依存文字になるなので、文字化けの危険性などを避けるために前者(略字・俗字)がウェブでは主流になりつつある。
 いろいろ書き連ねてきたが、漢字とひらがな、そらにその関係についてはややこしい面があり、事程左様にうまく理論的に説明できるものではないということを言いたいのである。先ほどの言葉の誤用や流行・変遷、今後ある程度見込まれる進展(ら抜き言葉の定着など)を踏まえると、言葉の表記のみならず文法的なことまでも含めて常に言葉は変化していることに留意すべきなのである。硬直した考え方が一番よくない。
 川柳について強いて言えば、人によって区々の表記だったとしても、自作の句を複数並べた場合、最低限は用字・用語を統一した方がよい。新聞や雑誌の編集でも表記の一貫性は守ろうとしているので、作句の上でこれくらいは心がけるべきだろう。



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  1. 太田紀伊子 on 2020年6月19日 at 3:33 AM :

    三上博史様
    お勉強になりました。常用漢字は中学2年生までで教わるそうです。みんな書けて読めなきゃしょうがないのですが、日本語は地方色もあり読めないこともありますね。
    俳句は季語がありますが、川柳は自由ですのでこれからはグローバルになるでしょう。英語からフランス語、小池知事の様にエジプト語その他、電車ではいろいろな国の言葉が耳に入ります。

    川柳の選者も心せねばなりません。懸賞川柳にもカタカナ語がたくさん入っています。せめて何を言いたいのかぐらいキャッチできればと思います。

    • 三上 博史 三上 博史 on 2020年6月19日 at 9:23 PM :

      紀伊子様、ありがとうございます。
      川柳は自由度の高い定型詩なので、表記についてももっと柔軟に考えていいのではと、兼ねがね思っていた次第です。

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