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 20年近く前の話しであるが、近県のある市で毎年開かれている川柳大会に私も足を運んで参加していた。席題はなく宿題の課題がいくつか出され、毎回100名以上の参加者がいる規模の大会だった。
 ある有名な吟社の代表が毎回選者の一人として参加していたが、五七五の定型以外は川柳として認めないという、がちがちの原理主義者だった。川柳をやり始めて数年足らずの私はそれを知らなかった。当時の私は上五は一音ぐらい多くても大丈夫だろうとてっきり思い込んでいて、その時もそのような定型からはみ出た字余りの句を作ってその選者の課題へ出句した。
 一般的な現代川柳の考え方として、少なくとも上六、上七程度は許容範囲であると自分なりに認識し、自分の詠む川柳も日々そういう前提で作句して所属する結社の柳誌などに提出していた。そして特段の指摘を受けることもなかったのである。
 その選者は、披講する前の話しで、自分は定型厳守の原理主義者(こんな言葉は使っていなかったが)であり、川柳とはそういうものだという持論をいきなり滔々と展開したのだった。聞いている私は面食らい、そうことなら大会の開催要項にもその旨のことをしっかり注記でもしてくれないと川柳の通念としてフェアではないだろう、と些か憤慨したのである。その選者が披講している間は、私の上五が字余りになっている句が抜ける訳でもないので退屈でつまらなかったことを憶えている。
 翌年にも私はその大会に参加したが、その原理主義の選者は引き続いて登場し、披講の前に得意になって、今回の集句はほとんどがきちんと五七五の定型を守っくれたのは喜ばしいことだと宣った。その言い方には、前回の私の発言をよく学んでくれたというようなニュアンスが含まれていた。私の提出句は勿論それに合わせて(迎合して)作った完全な定型句なので、一句ぐらいは抜けたと記憶している。
 さて中八は駄目というのは川柳の基本である。下六も座りが悪い。ここらあたりは初心者の頃にしっかり頭に叩き込まれるが、上五は上六、上七でも結構認められている。それが現代川柳というものだ。新語・流行語やカタカナ語に溢れた、複雑極まりない現代社会において、柳多留の頃からの定型を墨守し続けるというのは、時代錯誤もいいところだろう。満足にパソコンも弄れない長老達がそんなことに飽きもせず拘っているから、今の若者達が現代川柳に興味を示さず、サラリーマン川柳や企業が募集するテーマ川柳ばかりが隆盛するのである。コロナ禍のご時世ではあるが、声を出してそう叫びたい。
 いずれスマホも持ち歩かないような情報に追いつけていない人間は、人非人のように扱われるかもしれない。超高齢化で川柳が人非人達だけの道楽に成り下がっては困るのである。それでは川柳はいずれ消滅するだけである。原理主義者は即刻退場。若者の新鮮な感覚をもっと川柳に吹き込まないといけない。件の選者はもう亡くなってしまったが、原理主義の亡霊はまだいる。そして現代川柳の足を未だに引っ張っている。

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