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 小学校の頃の勉強のことであるが、高学年になると社会科の授業は地理の他に歴史も学ぶようになる。教室の壁の高いところには横断幕のような日本史の年表が貼られていた。最初は書かれていることへの理解が充分ではなかったが、学習が進んでいくと少しずつ興味が湧いてくる。
 年表は縄文時代から始まって昭和時代で終わっていた。いろいろな歴史的出来事が、起こった年の年号や西暦とともに縦書きで記されている。下からよく眺めていると、奈良時代、安土桃山時代、大正時代の幅が狭かった。年数も短くて書くことがあまりなかったからそうなのだろうぐらいの認識を当時の私は持っていた。
 しかし西暦の年数をよく見ると、例えば奈良時代は80数年の長さである。安土桃山時代の30年や大正時代の15年は短いのでスリムな幅でも構わないが、奈良時代のスリムさ、記述の簡潔さは何か可哀そうである。奈良時代でもいろいろなことが起こっていたはずではないか。
 平安時代は400年近くあり、江戸時代は260数年だが、それぞれの時代に起きた出来事の項目は江戸の方が遥かに多く書かれていて幅をとっている。これも不平等な感じがする。バカバカしいことかもしれないが、小学生だった私の歴史学習にはそんな思いが伴っていた。
 その後、縄文時代が1万数千年続き、これとよく対比される弥生時代が数百年しかなかったことも学ぶと、さらに驚いた。出来事ではなく各時代の年数の比率に基づいてスペースを割り振った年表を作成したらどうなるだろうか。日本の歴史のほとんどは縄文時代が占めることになる。こんなことに気がついたのは、当時私一人ぐらいだったかもしれない。
 風化という言葉がある。風化とは、そもそも海岸や山地などが時間とともに風や水によって削られていく自然現象のことをさすが、これを人間の歴史や文化の変遷などにも喩えて使われることも多い。歴史的事象に対して感情や思いを当てはめ、それらにも時代の変遷とともに意識が変化することを意味している。さらに個人の生き方にも使われる場合がある。
 歴史は史料(文献や遺跡・遺物、伝承など)に基づいて記述される。古い年代ほど史料は少ない。それは古文書などの文献がそもそも少ないということだけでなく、史料は自然現象と同じように風化していくからである。風化が少なければ古代史についての記載は当然増えてくる。
 奈良時代の日本の人口は500万人から700万人程度と言われている。今と比べると遥かに少ない人口であるが、その人口規模でも人々の日々の生活の営みと社会の変動があった。史料さえ残っていれば、記述すべきことはもっとたくさん出てくるだろう。
 個人の年表を作成しようとすれば、子供時代についての記述は少なく若い盛りになるころから増え始め、老いを感じるようになると記すべきことも段々少なくなってくるだろうか。個人差はあるにしても、個人の歴史にも風化の現象はある程度当てはまる。
 風化したとはいえ、物理的な時間の観点から見れば日本の歴史のほとんどが縄文時代(それ以前のものもあるが)であることは、改めて感慨深いものに思えてくる。これが世界史になると、先史・古代の時代が日本の歴史以上にとんでもない長さになっている。
 時間の流れに濃淡はあるのか。淡いものからどんどん濃くなるのが歴史の流れなのか。デジタルアーカイブの方法がさらに進歩していけば、歴史の風化の速度はかなり止められるかもしれない。
 現代における情報の取り扱いは、事件や事故、自然災害などが発生して社会的に記憶される事象となった場合に、その規模で風化の度合いが異なってくる。特に自然災害などは、その犠牲者の数の多寡によって、報道のされ方だけでなく記録に残して思い返そうとする社会の意識のベクトルも変わってくる。犠牲者のそれぞれの遺族にとって、その悲しみと無念さに変わりはないのだが、報道とそのアーカイブの扱いは災害規模によって異なる。風化するって何なのだろう。
 以上、年表の思い出から歴史の風化について、かねがね感じていたことを関連されて書いてみた。

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