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 曖昧な記憶だが、動植物の名称の表記をカタカナで学習するのは中学校の授業からだったろうか。例えば「鯨」も「桜」も、「クジラ」や「サクラ」と表記する。中学理科の教科書あたりからそのように変わったと思う。
 カタカナ表記のやり方は、科学の世界ではそういうものだということで受け入れてしまえばそのとおりに納得するが、よくよく考えてみると、なぜそのようにするのか改めて疑問も湧いてくる。どうしていわゆる学名と呼ばれるものはすべてカタカナ表記にしたのか。
 私なりに考えたのは、ひらがな表記だと、それに当てはまる漢字が元々ある訳で、それは漢語から来ているものが多いのではないか。つまり中国から来た漢字(熟語)に和語を当てるので、難読となる場合が多くなる。これは教育上面倒なことである。
 例えば「虎杖」。これは訓読みで「イタドリ」と読む。そこら辺りの川っ縁や林に自生している雑草の類いである。この漢字の由来は、茎に斑点があってそれが虎の皮に似ていて、さらに茎が杖のように硬いからそのような漢字表記(もちろん漢語)になったということである。「貂」という動物がいる。山林などに棲息するイタチみたいな動物であるが、これは訓読みで「テン」と読む。漢和辞典を捲ると、この字の両隣りは「豹(ひょう)」「貉(むじな)」が載っている(角川新字源)。豹は別として、貂や貉はなかなか読める漢字ではないのではないか。魚の名前などはほとんど魚偏で成り立っているが、それらの漢字を覚えるのは難しい。鰯(イワシ)や鰹(カツオ)などは漢字表記としてよく使われるが、それ以外のたくさんの魚については、何と読むかクイズによく出されるほどである。
 動植物の名前にはいろいろな由来があるから、それを踏まえた命名(和語)に当てる漢字表記(漢語)はややこしいものが多い。要するに漢字や熟語を訓読みするのは難しい。そういう理由から、学名は漢字表記を使わず、取り敢えず読みやすいカタカナ表記を基本にしたのではないか。
 実はこれもデメリットがある。「フシグロセンノウ」という秋に花が咲く植物がある。これは「節黒仙翁」と漢字で書く。節のところが確かに黒っぽく、「仙翁」は京都嵯峨の寺の名前「仙翁寺」から来たらしい。謂れを聞けばなるほどと納得するが、漢字表記してくれた方が覚えやすいだろう。
 「バイカモ」という植物をご存じか? 小川などの川底に生えていて、水中で小さな花を咲かせる。私は変な名前だなとかねがね思っていて、「…カモ」は「…鴨」のことかと勝手に思い込んでいたのだが、これは漢字で「梅花藻」と表記して、梅のような花が咲く藻という意味だと分かった時、単語の音の区切り方の難しさを改めて実感したものだった。
 競走馬の名前はすべてカナカナ表記という原則になっているが、中央競馬会などで決められた命名ルールの中で馬主が自由に名付けることができる。昭和の頃に「ハイセイコー」という名馬がいた。漢字にすればどういう表記になるのか? すべては外来語からきているなら全部カタカナでいいが、「セイコー」が「成功」の意味なら、本来の正しい表記である「セイコウ」を敢えてバタ臭く洒落て「セイコー」にしたのだろうか。1970年代に社会現象となったくらいの人気を集めた国民的な名馬だったが、当時高校生だった私は、この馬のネーミングの由来はどういうものなのかもの凄く気になった。今も私には分かっていない。競走馬の命名(由来は日本語か外来語か、和洋折衷・ハイブリッドの場合もある)についていろいろ考え出すと、悩ましいものばかりを目にすることとなる。
 そう言えば、時計メーカーのセイコーも元々の漢字は「精工(舎)」から来ている訳だから、本来は「セイコウ」が正しいカタカナ表記なのだろう。ケータイも「携帯電話」から来ているから本来なら「ケイタイ」と表記すべきなのだろう。しかしいずれも「…ウ」を使わず「…ー」を使う。その方がやはり外来語的で格好いいと判断したからだろうか。
 更に話しは逸れていくが、「ダサい」はカタカナ・ひらがな混じりのこの表記が一般的であり、「ださい」などとすべてひらがな表記することはあまりない。すべてひらがなにたら、「ダサい」表記の「ださい」となる。
 表意文字(漢字)と表音文字(ひらがな、カタカナ)を上手く使い分けしているのが日本語の世界であるが、ややこしい場面はいくらでも出てくる。カタカナ表記を一つ取り上げても難しい。奥が深い。



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