東京みなと番傘川柳会の11月例会と句誌『港』の魅力
東京みなと番傘川柳会の11月例会が開催され参加。
11月4日(水)は、東京みなと番傘川柳会の11月例会の日でした。東京みなと番傘川柳会は、青木薫会長のもと、川柳を愛する仲間たちが集い、句作と交流を楽しんでいる川柳会です。今回の例会会場は、東京都豊島区の「としま区民センター」5階503号室です。JR池袋駅東口から徒歩約7分、中池袋公園の近くにあり、交通の便にも恵まれた会場です。午後1時に開場し、午後2時が出句締切となっています。
11月例会の課題と選者は次のとおりです。
| 課題 | 選者 |
|---|---|
| うろ覚え(3句連記) | 青木薫氏 |
| 紐 | 岩崎能楽氏 |
| 思えば遠くへ来たもんだ(詠み込み不可) | 池下富裕氏 |
| 繰り返す | 中村京子氏 |
「うろ覚え」という日常の記憶にまつわる題から、「紐」という具体的な題、人生の歩みを振り返る題、さらに「繰り返す」という幅広い解釈が可能な題まで、変化に富んだ課題が並びました。同じ課題でも、作者の人生経験や着眼点によって、まったく異なる作品が生まれるところに川柳の面白さがあります。
東京みなと番傘川柳会の歩みと活動
東京みなと番傘川柳会は、その名称にもあるように「番傘」の名を掲げて活動する川柳会です。番傘の名は、近代川柳の歴史の中でも重要な位置を占めています。大阪で生まれた番傘川柳の伝統は、日常生活に根差した人間味豊かな作品を大切にし、多くの川柳愛好家に親しまれてきました。東京みなと番傘川柳会も、そうした川柳文化につながる会として、句会と句誌を通じた創作活動を続けています。現在は青木薫氏が会長を務め、定例句会を開催するとともに、句誌『港』を発行しています。来月は12月4日(金)の次回句会も告知されています。句会への参加だけでなく投句も受け付けており、会場に足を運ぶことが難しい方にも川柳を楽しむ機会が用意されています。創立以来の詳しい沿革については、今後、会の記録や古い句誌などを通じて明らかにしていければと思います。
句誌『港』に見る川柳の魅力
東京みなと番傘川柳会の活動を知るうえで欠かせないのが、句誌『港』です。11月例会の案内チラシには、『港』9月号・10月号から抜粋された「港秀吟抄」が掲載されています。その中から、いくつかの作品をご紹介します。
微笑めば微笑みがくる春の朝
近藤道子声のする方へ光の差す方へ
平尾正人善い人になって心配されている
菊地良雄晩成を信じてやまぬまだ傘寿
上原稔大切なものは触れずに抱いている
稲沢ひろせ去ってゆくわたしを乗せた救急車
荒井幹雄いい風が吹くまでじっと帆を畳む
岩波敬祐果てしない自由とてつもなく孤独
辻直子
どの作品にも、それぞれの作者の人生観や人間への温かなまなざしが感じられます。とりわけ「晩成を信じてやまぬまだ傘寿」という一句には、年齢を重ねてもなお成長を信じる作者の気概が感じられます。また「いい風が吹くまでじっと帆を畳む」という句は、人生には前進する勇気だけでなく、時機を待つ知恵も必要であることを教えてくれます。こうした作品を読むことができるのも、句誌『港』の魅力の一つです。
句誌『港』10月号に短編小説『嘱目吟の証言』を掲載
さて、私にとっても句誌『港』には嬉しい出来事がありました。10月号に、渡辺柳山作の短編ミステリー小説『嘱目吟の証言』を掲載していただいたことです。この作品は、川柳の吟行を舞台にしたミステリーです。吟行とは、実際に街や名所旧跡などを訪れ、その場で見聞きしたことや感じたことを川柳に詠む創作活動です。特に「嘱目吟」は、目の前の風景や出来事を直接観察して句にすることを基本とします。この嘱目吟の特徴を、ミステリーの謎解きに結びつけたのが今回の作品です。舞台は東京・浅草。川柳会の吟行中に骨董店で盗難事件が発生し、思いがけない人物に容疑がかかります。しかし、吟行句会に提出された一枚の句箋が、事件の真相を解く重要な手掛かりとなっていきます。川柳と推理小説という、一見異なる二つの世界を結びつけた短編です。以下に、句誌『港』10月号掲載作品の全文をご紹介します。
短編ミステリー小説『嘱目吟の証言』(渡辺柳山作)
東京みなと番傘川柳会句誌『港』令和8年10月号掲載作品
「はい、それでは一時間後に浅草寺境内へ集合です。皆さん、嘱目吟を開始してください」
好天に恵まれた五月、台東区民会館の会議室に集合した東京そよ風川柳会の会員による毎年恒例の吟行が始まった。
ベテラン川柳作家の柳田渓水は隅田川方面に向かい、柳並木を眺めながら句をひねった。
丁度そのころ、仲見世近くの骨董店から店主の悲鳴が響いた。
「掛け軸が盗まれた!」
目撃者は駆け付けた警察官に口々に証言した。
「確かに白い帽子の男が走り去っていきました」
白い帽子をかぶっていたのは柳田渓水だった。警察の任意同行を求められた柳田渓水の取り調べが浅草署で始まった。
若い担当刑事の言葉に、渓水は静かに頷いた。
「私は、その時間帯なら隅田川沿いの柳並木を歩いていました。でも一緒に行動した会員はいませんでしたから、残念ながら証明してくれる人はいませんが……」
浅草署では現場周辺の防犯カメラもチェックしたが決定的な犯行現場は映されていなかった。
数日後、担当刑事は参考までに吟行句会の句箋を、吟行を担当した榊原実行委員から預かり読み始めた。
「刑事さん、嘱目吟は見た儘を句にします。作り話は嘱目吟ではご法度です。見たことを詠むのが嘱目吟です」
その言葉に句集をめくる刑事の手が止まった。
骨董屋駆け出す男夏の汗
この句はベテラン会員、村岡青風の句だった。刑事は眉をひそめた。
句会が始まった時点では、盗難事件そのものは誰にも知られていなかった。それなのに村岡青風は店から男が走り出す場面を句にしている。
犯人を目撃したのかは分からないが、この嘱目吟一句により犯行時間にいたことは確かだった。
担当刑事は早速、この句の作者である村岡青風の事情聴取を開始した。
青風は最初、容疑を否認していたが、自分自身が窃盗に関わった容疑を認めた。
これで柳田渓水の容疑は無事晴れたのだった。
吟行で詠む嘱目吟、まさか自分の犯行を詠むとは誰も思わなかったが、見た儘を一句にするため、十七音の川柳が十分証人になりうることを皆、実感したのだった。
(了)
川柳が物語を生み出す楽しさ
今回の『嘱目吟の証言』は、川柳の持つ観察力をミステリーの謎解きに生かした作品です。川柳は、日常生活の何気ない出来事や人間の行動を、わずか十七音に凝縮して表現する文芸です。しかし、その十七音の背後には、作者が見た風景、出会った人物、感じ取った感情など、実に豊かな物語が隠されています。その意味では、川柳と小説は決して遠い存在ではありません。一句の川柳から一編の小説が生まれることもあれば、小説の一場面から一句の川柳が生まれることもあります。私はこれからも、川柳と小説という二つの文芸を結びつけながら、新しい創作の可能性を探っていきたいと思っています。
今回、作品を掲載していただいた東京みなと番傘川柳会の青木薫会長をはじめ、句誌『港』の編集長の犬塚博さんに大変お世話になりました。心より御礼申し上げます。
東京みなと番傘川柳会が今後ますます発展し、川柳を愛する仲間の輪が広がっていくことを願っています。今月も2名の新加入の会員が紹介されました。これも稲沢ひろせ広報部長の広報活動の賜物です。毎月いろいろな句会に出席して東京みなと番傘への加入の呼び掛けを行っている結果です。
次回句会のご案内
次回の東京みなと番傘川柳会の句会は、令和8年12月4日(金)に開催予定です。会場は、としま区民センター5階503号室。午後1時開場、午後2時出句締切です。投句も受け付けていますので、関心のある方は東京みなと番傘川柳会にお問い合わせください。川柳を通じた新しい出会いと交流が、これからも末永く続いていくことを楽しみにしています。是非、活気に溢れる楽しい東京みなと番傘に足をお運びください。
柳山
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