芥川龍之介の世界を朗読で聴く
~朗読から見えてくるもの~
芥川龍之介没後100年、今日は東京浜田山の画廊ウイングアートで開催された「芥川龍之介の世界」という朗読会を聴きに行った。朗読された作品は『ピアノ』『トロッコ』『幻燈』『道の上の秘密』『午休み~或空想~』『Mensura Zoili』『春の夜』『舞踏会』『戯作三昧』の9作品が朗読された。
その朗読を聴いていると映像が浮かび上がってくるような臨場感があります。文字を目で追って読むのとは違った緊張感があります。また朗読者の感情がその朗読に入るためより一層の緊迫感が感じられ声を通じてそれがひしひしと伝わってきます。講師はNHK文化センターイオンカルチャー倶楽部講師の浜崎俊文さんで長年の朗読の技術が見事でした。
『トロッコ』――戻って初めて分かる人生
『トロッコ』は、少年良平の体験を描いた作品です。トロッコを押しながら遠くまで来てしまい、最後は一人で夕暮れの道を帰らなければならなくなる。子どもの小さな冒険ですが、そこには人生そのものを思わせるものがあります。行くときは夢中だった。しかし振り返れば、ずいぶん遠くまで来てしまった。人生も同じではないでしょうか。若いころは前ばかり見ています。ところが年齢を重ねると、ふと来た道を振り返ります。あの分かれ道。あの出会い。あの別れ。『トロッコ』には、そんな人生の郷愁があります。川柳なら、『振り向けばずいぶん遠い古希の道』(柳山)と詠みたくなる世界です。
『幻燈』――人生を映し出す一瞬の光
「幻燈」という言葉そのものが、川柳的な想像力を刺激します。幻燈は、光によって像を映し出します。現れては消える。そこには「人生もまた幻燈のようなものではないか」という読み方ができます。川柳もまた、人生の長い時間を十七音の一瞬に映し出す文芸です。幼い日の記憶。父母の面影。恋。老い。別れ。それらを一枚の幻燈のように十七音へ映し出す。そう考えると、川柳一句そのものが「人生の幻燈」と言えるかもしれません。『古写真父の小言が聞こえ出す』(柳山)短い言葉から、その向こうにある時間まで立ち上がってくる。それも川柳の魅力です。
『戯作三昧』――創作する者の苦しみと喜び
『戯作三昧』では、滝沢馬琴が主人公として描かれます。作品を書きたい。しかし生活もある。他人の評価も気になる。世間との付き合いもある。それでも最後には創作の世界へ没頭していく。ここには、ものを書く人間なら誰でも共感できる「創作者の業」があります。これは川柳を作る私たちにもよく分かります。一句ができない。推敲しても納得できない。それでも一句が完成した瞬間、何とも言えない喜びがあります。芥川が描いた馬琴の「戯作三昧」は、私たち川柳人に置き換えれば、まさしく「川柳三昧」なのかもしれません。『締切を忘れて一句また一句』(柳山)と創作する人間の幸福とは、案外こんなところにあるのでしょう。
芥川文学と川柳を結ぶ「人間を見る目」
朗読された作品を聴いていると、芥川文学と川柳の共通するものが見えてきます。『トロッコ』には人生の郷愁。『幻燈』には記憶と人生。『戯作三昧』には創作への執念。すべてに共通しているのは「人間」です。芥川龍之介は、そんな人間の矛盾を小説で描きました。川柳もまた、人間の矛盾を十七音で描き続けてきた文芸です。そしてもう一つ共通しているのが「穿ち」でしょう。当たり前に見えるものを、少し違う角度から見る。人間が隠している本音を見つける。常識をひっくり返してみる。そこから芥川文学の奥行きが生まれ、川柳の笑いや風刺も生まれます。朗読は、活字で読む文学とはまた違い、声になった言葉には、文章の呼吸があり、間があり、音があります。そして沈黙があります。これは川柳の「披講」にも通じるところがあるように思います。川柳も句箋で読む一句と、披講によって耳から入ってくる一句では、印象が変わることがあります。今回は芥川龍之介の文章を「文学を聴く」という楽しみ方で朗読を聞きました。人間を見つめ、人間を疑い、人間を笑い、そして人間を愛する。そこに芥川龍之介の文学の特色があるように思います。今日は、芥川龍之介没後100年の作品朗読を聴く会に参加してそんな感想を持った一日でした。
柳山
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浜田山は懐かしい場所です。亡母の勤め先の鰻の竹葉亭、2代目の別府哲二郎さん宅を訪ねました。どれでも、何冊でも持って行きなさいと言われ、夢見心地になりました。一冊よと母が袖を引くので、吉川英治の神州天馬侠を選びました。朗読好きです。妻のグループの講師は、元NHKアナの荒川修さんから、今は青年劇場の藤井恵美子さんになりました。
植竹団扇さま
コメントを有り難うございます。
浜田山はいろいろとご縁の深いところなのですね。
奥様も朗読グループで楽しまれていうご様子で何よりです。
朗読も川柳と同じように奥の深い文芸だと感じました。