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(写真はイメージです)

披講について学ぶことの重要性

――選者と詠者をつなぐ「声」のコミュニケーション

  川柳大会や句会では、選者が入選句を読み上げることを「披講」といいます。川柳に親しんでいる人にはお馴染みの光景ですが、私はこの披講を、単なる入選句の発表ではないと思っています。選者が選んだ一句を声にして会場の参加者へ届け、それを聞いた作者が自らの雅号を呼名する。そこには、選者から詠者へ、そして詠者から選者へという「声によるコミュニケーション」があります。

 つまり、披講と呼名は、選者と詠者の大切なコミュニケーションなのです。

■ 披講は一句の「最後の仕上げ」

 川柳は五七五、わずか十七音の文芸です。短いからこそ、一音一音が大切です。選者による披講の仕方によって、同じ一句でも聴き手が受ける印象は大きく変わります。

 特に大切なのは、下五までしっかり、明確に披講することです。

 上五、中七をはっきり読んでも、最後になるにつれて声が小さくなり、下五の語尾が聞き取りにくくなってしまっては、一句の魅力を十分に届けることができません。下五まではっきりと声を届けないと作者も自信を持って呼名できなくなります。

例えば、「一歩引き人を立てれば道開く(柳山)』

 という句であれば、最後の「道開く」まで明瞭に会場へ届けてこそ一句が完成します。川柳では下五に「落ち」や「余韻」、作者の思いなどが置かれることも少なくありません。だからこそ、披講では最後の一音まで大切に扱う必要があります。ただ、披講は句を必要以上に演出することではありません。声量、読む速度、間の取り方、抑揚などを工夫しながら、作者が十七音に込めたものを損なわず、聴衆へ届けることが披講の大切な要素だと思います。

■ マイクも披講の大切な道具

 大会や大きな句会では、マイクを使用することが一般的です。ところが、マイクがあれば必ず声がよく聞こえるわけではありません。マイクとの距離が遠かったり、顔を動かしたときに口元がマイクから外れたりすれば、せっかくの披講も聞き取りにくくなります。披講を始める前に、自分に合った高さや角度へマイクを調整しておくことも大切です。マイクは単なる音響機器ではなく、作者の一句を会場の隅々まで届けるための大切な道具と考えたいものです。マイクの設定は主催者側の準備によって行われますが、意外にマイクがオンになっていない。披講する選者の高さにあっていない。マイクスタンドがなくて披講の際に苦労する姿などが散見されます。マイクの設定には主催者側で十分時間をかけて準備することが大切です。

■ 披講と呼名は「声のキャッチボール」

 入選句が披講されると、その作者が自分の雅号を呼名します。この瞬間こそ、川柳大会や句会ならではの魅力があります。選者が一句を読み上げる。それを受けて作者がはっきり呼名する。

 私は、このやり取りを「声のキャッチボール」と考えています。披講だけで終わるのではありません。作者から呼名が返ってきて初めて、「この句を作った人がここにいる」ということが会場全体に伝わります。

 はっきりした呼名が会場から響けば、選者も気持ちよく次の句へ進むことができます。会場にも自然なリズムが生まれ、次は誰の名前が響くのだろうという期待感も高まります。

 したがって、良い大会・句会をつくるためには、選者の披講だけでなく、詠者側も明瞭な声で呼名することが大切なのです。

■ 呼名した作者へ顔を向ける

 私が披講で特に大切にしたいと思っていることがあります。それは、呼名した作者に対して選者が敬意を持つことです。披講している選者は、どうしても手元の句箋に意識が集中します。次々と句を読み上げなければならないため、句箋ばかりを見てしまうこともあるでしょう。しかし、呼名が聞こえたら、一度その手を止めて作者の方向へ顔を向けてみてはどうでしょうか。ほんの一瞬でも構いません。作者の方向を見る。軽く目を合わせる。場合によっては小さくうなずく。それだけでも作者の受ける印象は大きく違います。

 作者にとって入選句を披講される瞬間は嬉しいものです。特に大会で自分の句が選ばれたときは、「選者に自分の句を認めてもらった」という喜びがあります。その作者が呼名しているのに、選者が一度も顔を上げず、ずっと句箋だけを見て次の句へ移ってしまったら、せっかくの「声のコミュニケーション」が一方通行になってしまいます。

 句箋を見る。そして句を披講する。呼名があれば作者へ顔を向ける。そして次の句箋へ進む。

この自然な流れが、披講と呼名のコミュニケーションを温かいものにするのではないでしょうか。

■ 選者が作者に敬意を持つということ

 選者は、多くの投句の中から入選句を選ぶ立場です。しかし、「選ぶ側が上で、選ばれる側が下」という関係ではありません。それは川柳を介してのコミュニケーションなのです。作者が句を作り、投句してくれるからこそ、選者の仕事も成り立つのです。選者と作者は、川柳という文芸を一緒につくっている仲間でもあります。だからこそ、選者には入選句だけでなく、その句を生み出した作者に対する敬意が求められることになるのです。一句を丁寧に読むこと。下五まで明確に届けること。作者の呼名をきちんと聞くこと。呼名した方向へ顔を向けること。 これらは小さな所作に見えますが、その積み重ねが選者への信頼につながり、句会全体の温かい雰囲気をつくります。

 良い披講とは、声が大きいとか滑舌が良いという技術だけではありません。

「この一句を大切に届けたい」「この作者に敬意をもって接したい」という気持ちが声や態度に表れることこそ、良い披講の基本だと思います。

■ 披講も学び、磨いていくもの

 川柳界では、作句について学ぶ機会はたくさんあります。五七五のリズム、言葉の選び方、推敲、穿ち、笑い、軽み、選者研究――。一句をより良くするために、私たちはさまざまな勉強をします。また選者になれば、選句についても学びます。ところが、「披講そのもの」を学ぶ機会は、それほど多くないように思います。しかし、大会や句会の最後に選句結果を参加者へ届けるのは披講です。そう考えれば、作句を学び、選句を学ぶのと同じように、披講についても学ぶ必要があるのではないでしょうか。

 良い披講をする人の読み方を聴いてみる。自分の披講を録音して聞いてみる。下五で声が落ちていないか確認する。読む速度や間を工夫する。マイクの使い方を練習する。そして、呼名されたときに自然に作者へ顔を向ける。こうしたことは、意識すれば誰でも少しずつ身につけることができます。

 披講は「慣れているからできる」ものではなく、学び、意識し、磨いていく技術であり所作なのだと思います。

■ 良き披講が大会・句会を盛り上げる

 川柳大会や句会の成功には、良い句が集まること、良い選が行われること、円滑な運営がなされることなど、さまざまな要素があります。しかし最後に、その成果を参加者へ届けるのは「声」です。選者が心を込めて一句を披講する。作者が誇りを持って呼名する。選者がその声を受け止め、作者へ顔を向ける。そこに短いながらも確かなコミュニケーションが生まれます。

 句を選ぶ力が「選者の眼」なら、句を届ける力は「選者の声」。そして呼名は、それに応える「作者の声」です。

 その二つの声が響き合うことで、会場に一体感が生まれます。良き披講は良き呼名を呼び、良き呼名はまた披講する選者を励ます。私は、この「声の往復」こそが川柳大会や句会の大きな魅力の一つだと思っています。作句を学ぶ。選句を学ぶ。そして、披講を学ぶ。さらに選者と詠者がお互いを尊重し、声を通じて心を通わせる。

 披講文化を大切に育てていくことは、これからの川柳界をより楽しく、温かく、活気あるものにしていくためにも重要なことではないでしょうか。

柳山

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