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 季節が移ろえば一応私も世間並みに衣替えをやっている。その辺は老いてもまだ無精していない。箪笥やクローゼットの防虫剤を取り換えたり補充したりも必ずやっている。まっ、リタイアして今年で10年目に入るが、衣類はあまり買ったことがない。肌着類を含めて知り合いからのもらい物の在庫があったり、何かのバザーなどで破格の値段が付いたシャツを入手したりして、それで衣食住の衣の部分の暮らしは何とかなっているのである。靴下などは数年前にスーパーの特売で買ったものがまだ何足もたくさん残っている。少なくとも過去1年間の衣類購入金額は間違いなく0円だろう。しっかりそのように記憶している。自慢ではないが、着る物には頓着していない人間になっているのである。定年後はその傾向が極地に達した感がある。
 若い時分に買ったセーターやシャツは勿体ないので、穴が空いたり擦り切れたりしていない限りは着続ける。流行などもまったく追わない、気にしていない。気にすることは衣替えの際に取り出した際、虫に食われていないかどうかの心配である。食われていると着古したものでもさすがにショックである。自分の落ち度を強く感じる。だから衣替えの度に衣類を点検して、後悔しないよう保存にはそれなりに注意しているのである。
 それでも衣替えの度に、これはどう考えても着ることはないなと思う物が目に入る。しかし踏ん切りがつかなくて処分できない。30代の頃、勤めに行く際に着用していたスラックスが何本もある。体形が変わって(肥ってしまって)、もう穿くことはないだろうと承知しているのになかなか捨てられない。シミがついているならいざ知らず、ウェスト回りの細さ以外はどこも問題がない。衣替えの度に目にしては、心の中で小さなため息をついている。
 さて、隣りに住んでいるご主人は80代前半で自宅の庭をいつも丁寧に手入れしている。だから冬以外は、草むしりの鎌や移植ゴテを持って庭先に立ち、何かの作業をしている日が多い。お互いに気がつけば必ず挨拶する仲になっている。ある時、ふと気がついた。いつもポロシャツなどに帽子を被って庭仕事をしているが、下半身は大体がスラックス姿なのである。折り目の無いデニムやチノパンなどではない。ジャージでもない。そのことが以前からほんの少し気になっていた。
 私の体重は現在50kg前後で、一番肥っていた頃より10kgぐらい瘦せている。瘦せ過ぎと言われても血糖値がやや高めなので簡単に体重を増やす訳にはいかない。老いて胴回りの贅肉もほとんどなくなってしまった。20代、30代の頃の体形に戻ったようなところがある。昨年のある季節の衣替えの際に、その頃のスラックスを試しに穿いてみた。無理かなと思いきや何ときちんと穿けたではないか。勿体ない。タックの無い流行遅れのスラックスである。しかし躊躇うものはない。何本かあるので、今後はこれらを穿いてみるかと思いついたのである。今まではチノパンやジャージを愛用していて、チノパンなどは裾が擦り切れれば買い替えていた。これからは現役時代のスラックスを再び着用すれば、ズボン類を買う必要もなくなる。年金暮らしの家計に優しい発想を思いついた。
 そして、ふと勝手に気がついたのである。隣家のご主人もスリムな体形を維持しているようなので、ウェストサイズなども若い頃とあまり変わっていないのではないか。その頃のスラックスがまだ穿けるので日々の作業用にそれらを使っているのではないか。面と向かって、そんなどうでもいいようなことを尋ねたら失礼に当たるのでとても訊けないが、私もだいぶ前の在庫のスラックスを普段着として着用しながら、庭先の草むしり(滅多にはやらないが)の時にもそのまま使うことになる。隣家のご主人と同じスタイルである。たかがスラックスのことから、隣家に対する少し妄想じみたものにまで思いが及んでしまった次第である。

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