『川柳 豊橋番傘』誌に『好句往来』が登場したのは、平成18年6月号でした。
トップバッターを快く引き受けて下さった名古屋番傘川柳会の近藤塚王さんが、『好句往来』というタイトルを考えてくださいました。
PCにその原稿が残っていたので、披露します。
青天の霹靂だった。でも早々と、こうして「川柳 豊橋番傘」誌を手にすることができるなんて、兄弟吟社にいる一人としても、こんな嬉しいことはない。順子編集長から依頼された、作品鑑賞。正直、私には荷が重いが気を取り直し、「好句往来」として、私なりに責を果たさせていただこうと思う。独りよがりな点や、礼を失するところがあればご容赦を。
○ 本心は浅い握手ですぐ分かる 寺部 水川
お座なりな握手ほど、シラけるものはない。私も、若いタカラジェンヌと握手して、感じたことがある。彼女は、娘役トップを張ったが、1公演限り。“浅い”がいい。形容詞の遣い方は難しいが、成功例。
○ 訣別の手紙を書いてからの空 青木紀雍子
別れは決断より、実行するときの方が厄介である。いずれにしろ、気まずさが付きまとう。修羅場を踏むことも。訣別にセオリーはないが、手紙を書き終わってから振り仰ぐ、空の青さを忘れないだろう。
○ 飲み込んだ夢のかけらが胃にささる 郡山 弘子
人は夢を飲み込みつつ、生きていくものらしい。ときどき、胃に突き刺さるから困る。私も、いまだに映画監督の夢が忘れられず、テレビなど観ながら、カメラを振り回しすぎるなぞと独りごち。迷惑がられている。
○ 夢を抱いたまま散るさくらだってある 川辺 昭子
これは、私みたいなよこしまなものではなく、志半ばで無念の涙を呑むようなケース。特攻生き残りの人から、ようやく桜が愛でられるようになった、という話を聞いたことがある。潔く散る桜ばかりではない。
○ 風船は空の高さを知らぬまま 中村 信柳
知らない方がいい。無限の高さを信じ、自由闊達に動き回る風船を、うらやましく思う。たとえ井の中の蛙であっても、いいではないか。でも、風船は案外、もどかしく思っているやもしれず、人は複雑である。
○ 善人面なんて長くは続くまい 鈴木 順子
いい子ぶるのを、やめることにした。あまりにも遅きに失したが、仮面を外してみて分かったのは、なんと気持ちの楽なことか、ということ。編集長にはぜひ、これからも是々非々で臨んでもらえれば、と思う。(名古屋番傘川柳会 名古屋市在住)