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 20歳前後の頃に思い悩んだことを今でもはっきり憶えている。
 高校生の時に「ポセイドン・アドベンチャー」(主演はジーン・ハックマン)というアメリカ映画を劇場で観た。豪華客船「ポセイドン号」が大津波で転覆し、ほとんどの乗客・乗組員が亡くなる中、果敢に行動した8名が生き残って救助されるという物語である。みんなを救うために頑張った主人公が、我が身を犠牲にして必死の行動に出る悲劇的なラストシーンに、私は滂沱の涙をこぼしたものだった。映画館が暗い場所でほんとによかった。心の中では声を出して号泣していた。最後の最後は感動的なシーンとなって観る方もいくらかは救われた気持ちになった。中学・高校時代に観た洋画の中で一番感動的なものだった。
 それから大学に入り、ある時何かの雑誌を読んでいたら、アメリカの某有名大学の学生が行った映画の人気投票でこの名作が何とワースト1位に選ばれたということが記されていた。愕然とした。私が最高の映画作品と称えたものが最低のランクに評価されていたのである。納得できないと反論したい気持ちより、ただ衝撃だけが頭に残った。
 映画という芸術において自分が最高傑作と絶賛したものが全否定される。人気アイドルのファン投票ではあるまいし、いくらなんでもひど過ぎる。ワーストワンになった理由、酷評の数々が紹介されていたようだったが、今はもう記憶には全く残っていない。
 さて、20歳前後は多感な時期。この話題を真剣に受け止め、文学部2年生だった当時、3年次から学ぶ専門課程の専攻を何にするかで大いに悩んでしまった。高校生の頃から、どこの大学に入学して勉強するにせよ、日本史をやろうと考えていた。だから受験もすべてそういった学科・専攻を選択していた。
 世界は広い。世界史的な視点で物事を学びたい。これを考え直さないといけない。そしてなるべく客観性が保証されるような学問に出合いたい。文学や芸術などの主観的なものが混じる対象をわざわざ選んで学ぶ気にはならなくなった。そんな自分なりの思索の展開を経て、ある時西洋哲学を学ぼうと考えるに至ったのである。
 しかし実際に専門課程に進級して哲学や西洋思想史を学ぶと、それほど客観性がある訳ではなく、所詮欧米人の思いつくことはこんなものかと感じることも少なくなかった。日本人の考え方として馴染めないものもあった。もちろん、いろいろ学んで今でもなるほどと思っていることはたくさんある。
 それからもう一つ、哲学を学びながら自分の思考方法に変化するものがあった。主観的な判断はなるべく停止する。事物に即してものを考えるよう心がける。そうすると好き嫌いという価値認識が消えてくる。何につけ、人前であまり好きとか嫌いとか言わない。物事の是非を判断する際にも、自分の感情や感覚を避けようと努力する。いろいろな数値データに表れたものになるべく信頼の重点を置くようにする。そしてこれが私の認識スタイルとなった。そんな訳で、しばらくは映画鑑賞と文芸・芸術関係の読書からは遠ざかった。
 20歳で哲学を学ぶことは、大袈裟に言えば私の人生の転換点みたいになったのである。その当時の考え方が今も続いているところがある。物事に対してあまり好き嫌いを言明しないことは、実は今も続いている。以前、衣食住にはあまり興味がないと書いたことがあったが、ここから始まっている訳である。
 そうは言いながらも、36歳で川柳という主観世界の文芸に出合い、生涯の友にしてしまった。ある意味では哲学とは真逆の世界観である。20代の頃の思考的偏りの反動がそうさせたのかもしれない。

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