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 1月にケータイショップでスマホの機種変更を行った時の話しから始める。
 6年前にガラケーから初めてスマホに乗り換えた際、仮に設定されていた自動生成のメールアカウント(ランダムな英数字)を私個人のものに変更した。しかしその後使用するメール画面には、自動生成の仮の方も相変わらず表示されてしまう。日々のメールの送受信には問題ないが、この表示をかねがね目障りに感じていた。どうしたらこれを消せるのか、変更した新機種の操作説明のついでに窓口で尋ねてみた。担当者は「デフォルトにすればいいでしょう」と言って、簡単な操作で私のアカウントが最初から画面に出るように直してくれた。これでずっと鬱陶しく思っていたメール操作上の問題が解決されて非常にスッキリした。
 その時に言われた「デフォルト」の言葉が実は気になった。デフォルトと言えば、国や地方団体、さらに企業などが財務に行き詰まって破綻することばかりをイメージしていたが、IT用語にもこれは使われているのかと思ったのである。そして、それが大きな事態ではなく比較的軽微なことをさしていたので妙に引っ掛かったのである。
 こういうことへのこだわりと好奇心は老いてなお一向に衰えていない私である。家に帰ってから、まずネットで検索してみた。いくつかヒットしたが、小学館が発行している女性向け月刊誌「Domani」のWeb版に載っている解説が最も分かりやすかった。
 引用して大まかに説明すると、①スマホやパソコンなどの「初期設定値」、②ビジネスや金融における「債務不履行」、③スポーツにおける「棄権」、④日常会話での「定番・標準」の4つの意味があるという。①は今回初めて出遭った意味になる。これで素直に私は納得した。②は先ほど述べたように以前から承知していたが、③もある程度は理解していた。そして④は若い世代のお喋りではよく使われているということである。
 さらに、これらのバラバラにも見える意味の由来についての説明もしっかり付け加えられていた。英語のdefaultは一般的には「失敗する」と訳されるが、もともとは義務を怠るといった意味合いがある。IT関連の分野で使われる「初期設定値」の意味は「誤りを否定する」ことから来ているとのこと。電子機器や電化製品などはプログラムを設定しておかないとエラーを引き起こしてしまうため、事前に誤りの防止を目的として初期設定を行う。これをデフォルトというようになった。日常会話で使われる「定番・標準」の意味もここから派生して生まれたきたようなのである。
 これを読んでかなり分かってきたが、念のために大学2年生の時に買った旺文社の英和中辞典も開いてみた。50年近く愛用していて、どのページにも下線や丸囲みを記した手垢塗れの代物である(下の写真)。今もってこれが処分できないのは、単語の語源が記されていて実に重宝するからである。サイズも大きくて収録した単語数も膨大な英和大辞典なら語源が載っているのは当たり前のことだろうが、中辞典クラスでそこまで丁寧に説明しているものはあまり見当たらない。購入した当時の私は、受験英語レベルから卒業して、語源から英単語を憶えようと考えていたのである。少なくとも私には画期的な英和辞典に思えた。だから今でも手放せないでいる。
 この辞書でのdefaultは、不履行・怠慢、欠席・(スポーツでの)不出場、欠乏・不足などの意味が列記されている。そしてこの語源は、古いフランス語から来ていて、de(away=離れて)+fallere(deceive=欺く・騙す)から成り立つと解説している。同系語としてはfaultが挙げられている。faultは、欠点・短所、誤り・過失、そしてテニスでのサーブの失敗などの意味で使われる。高校時代の受験英語に取り組んでいた頃に、この単語はしっかり学んでいた。当たり前のことだが、パソコンなどなかった時代だったので、この辞書にはどんな単語を調べても、その後に情報科学やコンピューターの用語に転用されて使われようになった意味は載っていない。
 さきほど「初期設定値」の意味は「誤りを否定すること」とDomaniの解説を引用したが、由来を遡って、誤り(fault)から離れる(de)ことと理解すればさらに分かりやすく納得することができる。語源を踏まえておくと、単語の意味の広がり方も学べるというものである。
 債務不履行の意味でのデフォルトには一つの思い出がある。20年以上前のことだが、職場の上司がある証券会社から外国債券を購入していた。私も同じような証券会社から買った国内債券を数口持っていた。その頃は昼休み時間などに証券会社の女性外交員が、投資信託や債券のチラシを職場内に配りながら歩き回っていたのである。
 当時の国内債券(国債、公社債)市場は今のマイナス金利の時代と違ってそこそこの利率や利回りで売買されていたので、外交員から勧められると、有名企業が発行するものならとりあえず安心して大丈夫だろうと購入したものだった。そして数年後の満期償還になれば別の債券に買い換え、うまく転がしながら資産運用(大した額ではないが)していた。
 上司のことに戻ると、購入したのは南米のある国の債券で利率もいいらしい。しかも円建てなので為替リスクが生じない。数年経てば元利がきちんと合計されて償還となる。話しを聞きながら自分の持っている国内の社債よりおいしい運用ができるのを少し羨ましく思っていた。
 ところが、その後しばらくしてその国の財政が破綻してデフォルトとなった。こういう事態は決して珍しいことではないが、新聞にそのことは詳しく報じられていた。上司は新聞を読みながらの電車通勤を毎日していたので、それを承知していると私はてっきり思っていた。ある時、何気ない会話の中でそのことを話題に持ち出すと、全然知らないと言う。私は、えっと思わず息を呑み体の動きが止まってしまった。上司はさほど驚いた顔を見せていなかったが、内心どうだったのか(動揺していたと思う)。
 何かの機会の時に私が付き合っている外交員に会うことがあったので、ついでにこのことを訊くと、デフォルトしても債券はすぐ紙屑にはならず、無利子の利率になって償還は数十年後に引き延ばされる場合があると説明してくれた。そして、この商品は利率もいいがそれなりのリスクがあるので、私はお客様にあまり勧めなかったとも話していた。以来、私の頭の中に債務不履行という意味に使われるデフォルトの単語がしっかり刻み込まれた。もちろん外国債券(特に新興国の利率が高いもの)の怖さについても学んだ次第である。

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